幸せのカタチ 第三話 / 十と不思議の扉
甲斐性なし
青色喫茶Ozには、なんとも言えない空気が流れていた。
一番奥の4人掛けのテーブルに、向かい合って座る男女がいる。
甲冑を着た女性…別世界の扉からやってきたとある王国の姫。
向かいに座るのは、姫のフィアンセと名乗った男。男は姫とは目を合わさず、気まずそうに下を向いている。
二人の間のテーブルの上には、あの木箱。未だ鍵は閉じたままだ。
「あ、あのお、姫様。クマの頭、こっちに置いておきますねー…?」
「はい」
気まずい沈黙をフォローしようと【さいまる】がそっと姫に声をかけるも、目も合わせずそっけない返しをくらい、より場の気まずさは増した。
「青木さん…これは、どういう状況ですか…?」
全く状況が呑み込めてない平野は青木に小声で尋ねる。
「ええと、お姫様が見つかって…」
「お姫様…ええ!?この人が、でもなんで甲冑!?」
「しっ!!」
思わず大声をあげた平野を青木が制す。
「…すみません。…で、向かいの人って不審者の…」
「あの人が姫様のフィアンセで…」
「フィアンセーー!?」
「しぃっ!!」
青木は事情を話すため、平野をキッチン奥へ引っ張っていった。
とはいえ、姫とフィアンセが出会ったのになぜこのような空気になっているのかは、青木にもわからなかった。
Vの世界から連れて来られたパクチーNAGASEは隣にいた【中田田中】に小さく尋ねる。
「私、なんで呼ばれたんですかね…?」
「ええとぉ…」
中田も気まずい空気に飲まれうまく説明できないでいた。
「ねえ。私いつまで待てばいいの?」
「え」
「もう私の事なんてどうでもいい?」
「どうして、そんなことは…」
「迎えにくるって言ったのに!全然きてくれないじゃない!いつまで待てばいいの!?」
「…すみません、それは、まだお金がなくて」
「お金がないのはあなたが働いたお金をすぐお酒に使うからでしょう!?」
「それはぁ…そうなんですけど、でも」
「お父様にも紹介するって言ってたのに、全然来てくれないから、お父様もしびれを切らして他の嫁ぎ先を決めようとしてるのよ!?」
「えっ」
「私が誰と結婚しちゃってもいいのね!?この甲斐性なし!意気地なし!!」
「ちょ、ちょっと待ってください!他の嫁ぎ先って…!」
「もう知らない!」
姫はまくし立てるように声を荒げると勢いよく立ち上がり、ガシャン、ガシャンとぎこちない動きで甲冑を着たまま出て行ってしまった。
(ああ、あの恰好のままはだいぶ不審だ…)
と思いながら青木には止める事ができなかった。
「なんだなんだ、女泣かせるなんて情けねえなあ!しっかりしろよ!一体何があったんだよ?」
と男に声をかけたのは、彼を追いかけていた【新原修司】だ。
男は大きなため息をついた。
「いや、だって。そりゃあ僕は確かに姫のフィアンセですよ。ある時お城を抜け出した姫と僕は偶然出会って、一目で恋に落ちました。その時に、私のことを忘れないようにって、香水をしみこませたハンカチをくれました。僕は想いに応えたい。だけど小さな工房にいる一般市民なんかがそんなに簡単に認めてもらえるわけないじゃないですか!だから…」
「だからって諦めるの?準備してきたんじゃないの?」
え、と男が声のした方を振り返ると、そこには【宇佐美ルカ】がいた。
「龍神様が言ってたよ?その箱には強い愛情を感じるって。それ、あんたのものでしょ?」
「…そうです。ここには僕が用意した指輪が入ってるんです。うちの工房にしかない技術を使った細工を施した箱に入れて、失くさないように姫のハンカチにくるんでたんです。丁寧に鍵までかけて。…なのに箱は落とすし鍵も失くして…結果長らく待たせることになっちゃって。やっぱり僕にはそんな資格はないって神様が言ってるんですよ…」
「指輪が入ってんなら、何としても開けなきゃでしょ!?」
と言いながら箱に手をかけようとした【白衣浅葱】を【佐波里玄盛】と【周】が無言で引きはがす。
ふいに、喫茶の扉が開く。
青木が反射的に「いらっしゃいませ」と言いかけて固まった。
「失礼します」
入ってきたのは十を連れた龍神だった。
「龍神さん!?え、十店長のお散歩ですか?」
「はい。一緒にお散歩をしていました。しかしこの世界はすごいですね。鉄の獣達行き交う大きな道を通ったのですが、あんなにけたたましい鳴き声をする生き物がいようとは」
「龍神さん…それ信号守ってます…?」
それに龍神が答える前に、十がパクチーの元に駆け寄る。
「おお、なんだ十~どうしたどうした!」
「ああ、お散歩しながら十くんの話を聞いていたんですが、どうやらパクチーさん。あなたの着ている燕尾服と蝶ネクタイを貸してほしいそうなんです。なんでも結婚の申し入れをしたい男性の為に使いたい、と」
「あ!!そうですよね、龍神様なら十店長の言葉、わかりますもんね!?」
と【北楯さくら】が声をあげた。
「ほら、十店長も立派な衣装用意しようとして応援してくれてるんだよ?ここでプロポーズ、ガツンと決めてやりなさいよ!」
バシっ!とルカが男の背中を叩いた。
「僕…僕は…そうですね…!」
「えーやめといたほうがよくないですかー?」
決意を固めようとしている男に突然水を差したのは【白井花】だった。
「花ちゃん?」
「だってー、王族に見合う立派な衣装自分で用意できなかったのって、お酒にお金つぎ込んでるからなんですよね?そりゃあお姫様だって甲斐性なしって言っちゃいますよー!私だったら、ないですねー」
「確かに」
「ええ…確かにって…」
「でも、あのお姫様があんなに怒ってるのって、やっぱりこの人のことちゃんと好きだからなんじゃない?その気持ちを思うと…」
さくらが思わずフォローに入る。
「でもお姫様がその人の事好きでも、本当に幸せになれるかは分かんないじゃないですかあ。お父様?王様だって心配しますよぉ」
確かに、と納得する声もあれば、それでも、という声も上がる。
ああだこうだといつのまにかその場にいる全員で議論する皆に囲まれ困惑する男。
その様子を目の当たりに、青木と平野は唸った。
「青木さん…ど、どうしましょう。なんだか収集がつかなくなってしまいましたね…?」
「うーん、困りましたね。…幸せのカタチって、何が正しいんでしょうね」
「これはぁ…答えがありませんね…」
「うわわ、まて、まてって十~!」
十店長を見ると、十はパクチーの衣装をはぎ取ろうとしていた。
「十店長は…この人を応援したいんですね。…ああそういえば、あなたお名前を聞いてませんでしたね」
青木は男に尋ねた。
「あ、ぼ、僕ですか?僕はウロと言います」
「ウロさん、あなた自身が本当にどうしたいか、よく考えてみませんか。きっとここにいるみなさん、それぞれの価値観をお持ちなので、色んな意見があるかと思います。話を聞いてみたり、考えたりして、あなた自身がどうしたいか答えを出してみるのがいいのかもしれませんよ」
「はい…だけど、どうしてそこまで僕の事気にかけてくれるんですか?」
「どうして。ふふ、そうですね。好きなんですよ。この喫茶に訪れた人のお話を聞くのが。私も。きっとここにいる他の皆さんもね。」
いまだ開かぬ箱を見つめ、青木は苦笑いした。
本当に、この場所に色んなものを運んできますね、十店長は。
担当:AGATA
――Ozの世界へようこそ。
依頼文は、青色喫茶Ozの掲示板に貼り出してありますよ。
ぜひ、あなたのお力をお貸しください。
あなたの一言で、Ozの世界は変わってゆきます。その未来を見たければ、またここを訪れてみてくださいね。
