幸せのカタチ 第三話【個別リアクションD:龍神の力】
龍と木箱と蝉の声
Ozの扉をくぐると、そこには大きな川が広がっていた。
動物の言葉がわかり、十店長とも知り合いだという、龍神の住む世界だ。
扉が開く気配でも感じたのだろうか。真っ白な着物を着た龍神が、姿を現した。
「やぁ、ずぶ濡れの彼は大丈夫だったかい?」
龍神の言うずぶ濡れの彼とは、前回この世界を訪れた際に【宇佐美ルカ】の指示で何故か川に飛び込み、そのまま沈んでいった平野のことだ。
「あれは……惜しい人を亡くしたわね」
ルカがしみじみと呟く。
「平野さん亡くなってませんから! ていうか、ルカさんが全部原因じゃないですか!」
同行していた【北楯さくら】が、ルカを嗜めると、ルカは舌をぺろっとだしておどけてみせた。
「君たちは面白いねぇ。ところで、私に何か用があったんじゃないのかい?」
龍神の問いかけに、【白井花】がくいついた。
「そうなんです!! 龍神さんは、十店長とお話ができるんですよね?」
「あぁ、そうだよ。私は動物と話をすることができるからね」
本題はそれだ。そのためにこの世界に戻ってきた。さくらが花に続いて、龍神に語りかける。
「龍神様はいつもどんな動物さん達とどんなことをお話になっているのですか?」
そう問いかけるさくらの瞳は、心なしかキラキラと輝いているようにも見えた。
「基本的には、この森にいる動物たちだよ。鳥とか野うさぎとか。鳥たちは、空を飛べるマウントをとりがちだから困ったものだけどね」
「空を制するものは世界を制す……」
「いや、聞いたことないですよそんなの」
ごくりと息を呑むルカに、さくらのつっこみがとぶ。
「セミさんは!?」
「……へ?」
見ると、花が目をまん丸にして龍神を見ていた。
「セミさんとかはお話しできるんですか?」
なぜ、セミ? 全員がそんな疑問を頭に浮かべる中、龍神がゆっくりと花に近寄っていく。
「君は相変わらず素直な瞳をしているんだね。それにしても……セミ、かぁ。あの子たちの声はなかなかに凄まじい。ちなみに、聞きたいのはどちらだろう?」
「どちら?」
「地上かい? それとも、地下?」
確かにそうだ。セミは地上に出て鳴いている姿が印象的だが、そうなる以前の三〜四年間、地下で過ごしている時期がある。
「ど・ち・らにしようかな〜」
「ど・ち・らに! じゃな〜い!」
ワクワクし始めた花を、必死にさくらが食い止める。四年間を地下で過ごす生声も、それを経た上での一週間の生を生き抜く叫びも、ちょっとごめん被りたい。
「ところで、龍神さん」
バタバタとしている二人をよそに、ルカが神妙な面持ちで手を上げる。
「十店長が開けたがっていた例の木箱なんですが、壊しちゃってもいいので、開けられませんかね? ほら、龍神さんのお力とかで」
大胆だが、直接的な解決方法を提案するルカを、龍神はじっと見つめた。
「私の力……となると、私はこの川を司る存在だからねぇ。例えば、洪水とかを起こしてその水圧とかでよければ……」
「よくはないな!!」
ルカにしては珍しく、声を荒げて龍神の声を遮った。
木箱一つ開けるために、大災害を起こされてはかなわない。
「慌てなくても、そんなことはしないよ。そもそもあの木箱からは、強い……愛情のようなものを感じた。そんなものを壊してはいけないよ。それに十店長はこれを大切にしていた。彼の気持ちを無碍にしてはいけない」
その通りだった。皆の目的は、十店長の持ち込んだ謎の木箱の正体を探るとともに、十店長の意図を知ることでもある。
その十店長の大事にしている木箱を、勝手に破壊するわけにはいかない。
「あぁ〜もぉ! じゃあ振り出しかぁ! せめて、十店長が何したいのかちゃんとわかればなぁ〜!」
「まぁまぁルカさん! また頑張って何か考えましょうよ! セミさん、聞きたかったなぁー」
「花はお気楽すぎるのよ! あと、セミはだめ!」
三人はわいわい話をしながら去っていく。
そして、一人残された龍神は思うのだ。
「……私が、十店長と話したらいいんじゃないかな?」
静かな独り言を、セミたちだけは聞いていた。
担当:為房大輔
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