STORY

幸せのカタチ 第二話 / 十と不思議の扉

まだ糸は結ばれない

青色喫茶Ozにほのかに香る不思議な香り…は、焼きたてのワッフルの小麦粉とバターの香りにすっかり相殺されてしまっている。
サモエド、十店長が持ち込んだ謎の木箱の持ち主探しの協力者達は【白井花】が注文したワッフルの誘惑に負け、全員が再集合する頃には喫茶でワッフルパーティーがはじまっていた。
「ぶえっくしょい!!」
そんな喫茶の片隅で、びしょ濡れの平野が震えている。
「ええ!?平野さん、なんでそんなびしょびしょに!?」
青木は戻ってきて開口一番大きな声をあげた。
「いや、うまくいくなんて保証はどこにもなかったんですけど…」
「そりゃそうよ!!でも本気で頑張ったのは認める!!」
タオルを持ってきた【宇佐美ルカ】が声をかけてきて、そのまま平野の頭をわしゃわしゃと拭いてやる。
「だけどあの龍神っていうのが十店長の言葉を分かるっていうのは収穫よねえ」
【瑠奈緒】はフォークを片手に言う。彼女によると、平野達と一緒に向かった先で出逢った龍神が、「十店長が木箱の鍵を開けたがっていたこと」を教えてくれたのだという。
「もしかして、十店長はあの箱がなんなのか分かって調べてるんでしょうか…?」
青木は考えながらふと十に目をやる。ワッフルに心を奪われよだれを垂らしている十の姿があまりに理性がなくて思わず苦笑いをしてしまった。

「もしかしたら危険なものの可能性もありますよね」
少し心配そうな顔で【北楯さくら】は言う。
中野で十の散歩コースを調査したさくらは、匂いを嗅ぎながら歩く不審者、それも明らかに別の世界から来たであろう者を見かけたのだという。
青木たちが向かった王宮の世界で、あの木箱から香るものはお姫様の香水である事が判明した。そして失踪する姫、その香りを追う不審者…
ひょっとすると、王家に代々伝わる大切な国宝…だとしたら、大変なことだ!
ただ…
「箱自体調べてもらって、描かれていた装飾の事を教えていただきましたが、それと共通するようなシンボルはあの世界で見かけなかったんですよね」
と、箱を調べていた【白崎羅々】と【佐波里玄盛】に声をかけたものの、2人は生クリームを山盛り乗せたワッフルに夢中だ。
単純に見落としていて気づかなかったのか、それとも別の世界のものなのか。あるいは特に伝統的なものとは関係ないただの個人の手芸品とか…?
だけどお姫様が行方不明になってしまった事と、お姫様の香水が香る箱がどう考えても無関係だとは思えない。
もしあれが、王国の運命すらも左右するようなとんでもなく重要なものだったとしたら…!
もしくは例えばあれが実は王国の存続を揺るがす兵器か何かだったとすれば…!?
嫌な想像が浮かんでは頭から離れない。
はしゃぎすぎてつまみ出されてしまったことが悔やまれる。もう少し調べられれば。

青木が頭を抱えていると、喫茶のベランダにスーツのジャケットを干した平野が声をかけてきた。
「青木さん、だ、大丈夫ですか…!?」
「あ、はい…いえ、これ以上自体がややこしくならなければいいなと…それより、平野さんの方こそ大丈夫ですか?」
「はい!僕身体は頑丈なんで!!普段夜行バスの往復で日帰り出張してるくらいには!!」
夜行バスで出張に行かされる会社のブラック度合いも青木は心配になったが、今はそれどころではなかった。
「ところで青木さん、僕はVの世界で【にーと】さん達が吟遊詩人さん?から聞いてきた話も少し気になるんですよねえ。十店長、なにかをすごく訴えかけてたんですよね?独特の香りのハーブが目印って…」
「恐らくですけど…パクチーNAGASEさんじゃないですかね」
「パクチーNAGASEさん…?また随分個性的な名前ですね…!」
「パクチーさんはVの世界の住人なんですけど、実はこっちの世界の人かと錯覚するくらいにはこっちの世界にも慣れてるというか…時々喫茶を利用しにくるんですよ」
「へええ、そうなんですね!でも確かに独特なハーブが目印っていうのにも一致しますね。ともかく、パクチーさんになにか協力を仰ぎたかったんだとすると…一体それがなんなのか分かれば、十店長が何をしたいのかも見えてきませんかねえ?」
「そうですねえ…」
話を聞く限り、ただ遊んで欲しかっただけでは…という気がしなくもないけれど…

その時
「ワン!ワン!!」
十店長が外をみて大きな声をあげる。
店内に響き渡る大声に、ワッフルパーティーをしていた協力者達も十に注目した。
外を見ると、不思議な格好をした人が一人喫茶の外をうろついている。フードを深く被った、ヨーロッパの田舎に居そうな格好…何かをスンスンと匂うような仕草をして…
「あ!!あの人じゃないですか!私が聞いた不審者!!」
さくらが声をあげるのと、十が外に駆けだしたのはほぼ同時だった。
不審者は十が走ってくるのをみて逃げ出し、あっという間に十共々喫茶のガラス面からは姿が見えなくなってしまった。
「わ、わ、大丈夫ですかね十店長!?」
「うーん、まあ…たぶん。十店長、めちゃくちゃ尻尾振ってたんで。今のたぶん、友達見つけて駆け寄ったノリに見えますね…」
「ええ、ほんとですかぁ…!?ちょっと僕心配なんで追いかけてみますね。どなたか、一緒にお手伝いいただいていいですか!」
平野は喫茶内の人に声をかける。
「ありがとうございます。私はもうちょっとさっきの王宮の世界を調べてみようと思います。いなくなったお姫様の事も気になりますし。」
香りを追う不審者、香りを纏う木箱…あの不審者の目的はこの木箱なのだろうか。あの人物はその在りかを知らせるべきなのか、知らせないべきなのか。
箱に描かれた模様を改めて眺める。
糸が結ぶ花びらと、丸いティアラか何かのような丸いマーク…
青木の頭の中に浮かぶ点と点を、糸はまだ、繋いではくれないようだ。

担当:AGATA

――Ozの世界へようこそ。
依頼文は、青色喫茶Ozの掲示板に貼り出してありますよ。
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