幸せのカタチ 第二話【個別リアクションA:龍神の扉】
ポケットの中の怪物
喫茶Ozから繋がる異世界への扉。何人かの協力者と共に、平野一休はその扉をくぐる。
「うわぁー! なんにもない!」
非常にのどかな風景だった。人工的な建造物は見当たらない。田舎の山の中という風合いだ。
その中で一際目立つのが、目の前を流れる大きな川だった。
「何もないとは失礼だな。龍神の怒りをかいたいのかい?」
振り向くと、真っ白な着物の長髪の男が立っていた。その姿は異様という他なかった。
「そうか、君たちはOzからやってきたんだね。それなら仕方がないか」
「あなたはどなたですか?」
一人納得をしている男に、勇気を出した平野が声をかける。
「私は、この土地を治める龍神だ」
「龍!? 狼の次は龍!?」
「平野さん、うるさい!」
狼狽する平野を、【宇佐美ルカ】がおさえつける。
「でも、龍ですよ! わからないかなぁ……ドラゴン!」
「わかりましたから! あの人とは私たちが話をしておくんで、平野さんはこの辺りに何か手がかりがないか探してきてくださいよ」
「え、僕だけですか?」
「はい。私、肉体労働は得意ではないので」
平野は如実に嫌そうな表情で、周りの大自然に目を向ける。
「でも、明らかに何もないような……」
「GO! 平野!」
「はいぃぃっ!!」
凄い勢いのルカの号令に呼応し、平野は闇雲に走り出した。指示を出したルカを、他の皆が見つめる中、
「君に決めたのよ」
ルカは何かそれらしいことを言っていた。
一体彼は何を探しに行ったのだろうと、全員の脳裏に疑問がよぎるものの、すぐに全員考えるのをやめた。それよりも今は、目の前の龍神だ。
【北楯さくら】はおずおずと龍神の前に立つ。
「龍神様って仰ってましたけど、何をつかさどっていらっしゃる神様なのですか?」
「それは何か関係のあることなのかな?」
龍神の迫力にさくらは少し後ずさる。その間に割って入ったのが、【瑠奈緒】だ。
「こんな機会滅多にないじゃないですか! 龍神ということは龍なんですよね? どんな神様なのか知りたいな……きっと美しいんだろうなぁ。かっこいいんだろうなぁ…」
「る、瑠奈緒さん?」
瑠奈緒の猫撫で声に戸惑うさくらに、瑠奈緒がそっと囁く。
「こういうのはね、おだてていい気持ちにさせときゃいいのよ」
「聞こえてるよー」
よからぬ企てをしている二人の間に、龍神がぬっと顔を出す。
「ぎゃあああ!!」
「ぎゃあってことはないだろうよ。それに君、かっこいいんだろうなぁって、今見てるじゃないか。おだて方を間違えているよ」
まさかそこに駄目だしをされるとは……瑠奈緒は、露骨に狼狽する。そこへ、汗だくの平野が戻ってきた。
「ルカさん、なんにもないです!」
「じゃあ別の場所だ! 火の中でも水の中でも、あの子のスカートの中でも見てきなさい!」
「ぴ、ぴかー!」
怯えた平野は瞬時に判断し、目の前に広がる川へと飛び込んだ。水の中を選択したのだ。
「わぁ〜!!」
急に力の抜ける声が響き渡る。見ると、【白井花】が周囲を見渡していた。
「自然がいっぱいで癒される場所ですね!」
今更!? 全員がそう思っている中、花は龍神に近づいていく。
「あの! 真っ白くて大きなワンちゃんがお散歩していたりしませんか?」
まっすぐに龍神を見つめる花を見て、龍神はふっと微笑んだ。
「君は随分と素直な瞳をしているんだな。ある意味あの子にもよく似ている」
龍神はふと、遠くを見つめて何かに思いを馳せる。
「あの子?」
「いや、それはまた別の話だ。さて、真っ白で大きなワンちゃん……君たちは十店長を探しに来たのかな?」
龍神の口から店長の名前が出たことで、皆の顔色が変わる。
「店長を知ってるの!? それを早く言いなさいよ!」
「ちょっと瑠奈緒さん! 地が出てますよ!」
荒ぶる瑠奈緒をさくらが必死に抑える。
「十店長とは友達だよ。彼がここに来た時にはよくお話をするのさ」
「話ですか? 龍神様は店長とお話ができるんですか?」
花の目が一層輝き出す。
「私は龍神だよ? 彼の言葉もわかるさ」
「じゃ、じゃあ! 不思議な木箱について、店長何か言っていませんでしたか?」
瑠奈緒を羽交締めにしながら、さくらが問いかける。確かに、十店長の言葉がわかるならこんなに早い話はない。
「木箱? あぁ……確か、鍵を開ける方法を探していると言っていたな」
「鍵?」
「そう、箱が開かないと困る人がいるんだと言っていた。それが誰かまでは聞いていないけれど」
これは大きな情報だ。店長はその誰かのために、あの箱を開けようとしているらしい。皆が歓喜の表情を浮かべる。
「お役に立てたみたいだね。それよりも君たち、大事なことを忘れていないかな?」
龍神はそっと川の方を指差した。そこには、一切の乱れなくゆっくりと流れる水面。はっとした表情で、ルカが急に躍り出る。
「平野ぉー! 特に大事でもないけど平野ぉぉー!! もういい、戻れ!」
その後、瀕死の平野が無事に回収されたのだという。
担当:為房大輔
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