すべてはワクチンプログラムたちのおかげだ。
ＡＩがバグと判断し、真っ先に除去しようとした存在は、すべてを破滅に追いやるものではなかった。むしろ、世界の均衡を保つために、自ら望んで身を捧げた、尊ぶべきものだった。
今は完全に消去されて、データの片鱗も残っていない。
自分の一部を強制的に削除し、厳重に封印したため、今後サーバーのあちこちで微細な不具合が生じる可能性が高い。
急がねば。これから忙しくなるぞ。

消えてしまったそのデータを、なぜか復元させなくてはいけない気がして、サルベージを繰り返した。
エラーメッセージが何度も続き、ＣＰＵの処理能力を圧迫し始めたので、ＡＩはそれ以上、考えるのをやめた。

AIはタイマーを起動させて、優先度の高いタスクから順番に修正にとりかかった。
ああ忙しい。忙しい。急がないと間に合わないぞ。

そのとき、この世界のどこかに白い閃光が走ったような気がした。
電子記録にも残らず、マイクロ秒に満たない時間に起きた刹那の出来事。
一匹の白い蝶が、この世界のどこかで羽ばたいて消えたと、いくつかの監視モニターから報告があった。
「情報をトレースして分析しますか？」と質問があったが、彼はそれを「追跡調査の必要なし。自由に羽ばたかせておけ」と命じた。

END