「急がなきゃ!急がなきゃ!」

その日はごく普通にやってきた。

いつも通り小さなベッドから起きて、朝ご飯のにんじんを食べて、赤いチョッキと懐中時計を身に着けて家を出た。
もちろん、メイドに白い手袋を探させて、ハシゴを持ったトカゲに煙突掃除を頼むのも忘れちゃいない。
マッドハッターにおはようと声をかけ、忙しそうなトランプ兵たちを横目に城門をくぐって中に入る。
廊下で気弱なキングに会釈をし、クイーンの広間に行くと、「遅い!」とお叱りの声を掛けられた。慌てて彼女に頭を垂れる。

遅い、と彼女は言うけれど、実際にはコンマ0秒も遅刻しちゃいない。クイーンは時間通りに来るのも、時間に遅れてくるのも、時間より早く来るのも気に入らないだけだ。
城を留守にできないクイーンの代わりにこまごまとしたお使いや伝達を命じられ、時計を手にワンダーランド中を駆け回るのがわたしのつとめだ。
そんなわたしにとっての最近の楽しみは愛くるしい少女アリスと話すことだった。彼女は特別なのだ。

「いつも忙しそうね、ウサギさん」

彼女は悪戯っぽく笑って労ってくれる。

「ああ、いつものことだからね。クイーンは人使いが荒いんだ」

わたしは首をすくめ、返事をしながら懐中時計をチラと見る。

「ウサギさんはなんのために忙しくしてるの?」
「なんのため?そんなの、わたしが仕事をしないと、このワンダーランドが回らないじゃないか」

わたしは自分の仕事に誇りを持っている。女王の使い走りと言う者もいるが、それで結構。時計の秒針。世界を回す小さな紳士こそがわたしなのだ。
そんなわたしに、アリスが言った。

「あなたがいなくても世界が回るようになれば、あなたも巣穴でゆっくりと眠れるのにね」
「もっともだ。最高だね。そんな日が、いちにちでも早く来ることを願っているよ」

そんなある日、わたしはお茶会の会場で机に突っ伏しているアリスを見つけた。
昼間っからお茶を飲んで居眠りとは良いご身分だ。そう思ったが、何か違和感があった。
アリスの肩をゆすると、彼女はそのまま地面に倒れ伏せ、死んでいたのだ。
なんてことだ。アリス、きみは、わたしがいなくても回る世界を作ってくれるんじゃなかったのか。それなのに君が先にいなくなるなんて、そんなのまるでアベコベじゃないか。

ミッション

・アリスを殺した殺人犯を見つけ出さなければならない。