
「私のことを本当に分かっていたのはあの娘だけよ」
私はこの世界の女王だ。誰よりも偉く、誰よりも尊い。
この世界の誰もが私の指図通りに動く。逆らう者は首をはねる。そんな傲慢不遜な私は国家一の嫌われ者だ。
でも分かってほしい。ワンダーランドの住民は好奇心が旺盛だ。
それだけならばまだいいのだが、基本的に無知なので、後先考えずに行動し、結果として自ら破滅に向かって行く。
おいしい毒なら平気で食べてしまうほど愚かなのだ。
ワンダーランドの住民は命の大切さを知らない。だから私が教えてやるのだ。
首をはねれば人は死ぬ。命の火なんて、ちっぽけだ。
フラミンゴの頭でハリネズミを打てば、どちらも簡単に死んでしまうのだ。
おかしな薬で実験をする公爵など、この国には変人が多いのだ。
私はこの世界に秩序を敷かなければならない。死ぬのがどんなに怖いことか、この身をもって国民に示さなければならない。
無知な連中を野放しにすれば、悲劇ばかりが起こってしまう。そんなことは私が許さない。
私はこの世界の女王なのだ。圧政者だと言われようが、私がこの世界を守ってみせる。誰もが自分を大切にし、同じぐらいに他人を慈しむことができる、理想の世界を作るのだ。
しかし、現実は厳しい。1人を殺すか、ほかの全員を殺すか。毎日のように厳しい選択を迫られる。
苦痛に顔を歪ませるのは心の中だけ。表向きは冷たい表情で、狂った住民に処刑を言い渡し続けている。仕方のない犠牲だが、私の心もどこかでおかしくなってしまいそうだ。
そんな私の前に現れたのがアリスだった。
最初は生意気な小娘だと思ったが、彼女は私のやることにいちいち文句を言ってきた。
そしてしまいには「ひとりで無理をしないで。困難は分かち合いましょう」と言ってのけたのだ。この、人でなしの女王の私に。
私と初めて対等に向き合い、一緒にやろうと言ってくれた。
結果の分かっている裁判で、初めて私は、彼女の優しさに負けた。
私は彼女に背を向けて、目頭をドレスのすそで拭った。
「アリス、あんたがそんなにやりたいなら、やらせてあげる」
それから毎日、アリスは城にやってきた。この娘だけは私のことを分かってくれる。
彼女はいつも私に笑顔で応えてくれる。私はようやく、この世界で女王をやる意味を見つけた気がする。
そんなある日、時計ウサギが急報を知らせた。アリスが死んだ、と。
私は持っていた杖を落とした。
ミッション
・アリスを殺した殺人犯を見つけ出さなければならない。