「オレは彼女の思いに応えてやることができなかった……」

オレはワンダーランドの端の木の家に住む帽子屋ことマッドハッターだ。ペットは飼い主に似ると言うが、ぎゃーぎやーわめく騒がしいオウムを飼っている。

無垢な微笑みを浮かべるあの娘、アリスと出会ったのはいつだっただろうか。
長年密かに恋焦がれていたマダムが公爵夫人になってしまった時、絶望の淵にいたオレに優しく声をかけてくれたのがアリスだった。

オレは辛い気持ちをごまかすように毎日「何でも無い日、おめでとう」と祝って、くだらないバカ騒ぎで気を紛らわせていた。
そんなオレを見透かすように、アリスは悲しい瞳でじっと見つめてくるのだった。
彼女は「あなたは毎日誰かのためにお祝いしてるのね。あなたは優しい人よ」と言ってきた。
オレは堪らなくなって否定した。アリスは「あなたのことが私は心配なの。私はあなたのことが大好きよ」と言って微笑んだ。オレは拒絶した。

彼女は毎日毎日、バカなんじゃないかと思うほどオレの元にやって来て、くだらないお茶会にむりやり参加した。
毎日、毎日だ。いつかはオレを見限ると思っていたのに、あいつは毎日やって来た。
風邪で寝込んでいる日はオレが大嫌いな薬を飲ませようとし、雨の後に虹が出たらオレの手を引っ張って一緒に見に行かされた。
オレはバカバカしい話を彼女に聞かせるたびに、少しずつ気持ちが楽になっていった。

そのとき、オレはふと気が付いた。オレにはもう、マダムは必要無いのかもしれないと。
アリスと知り合ってから今日まで、毎日が特別な日だった。ずっと幸せだった。これからも永遠に、アリスとこんなバカバカしいお茶会を続けられるならそれも良いかなと思い始めていた。
彼女にそのことを教えてやろう。たまには「何でもない日、おめでとう」ではなく、「特別な日を、ありがとう」と感謝の言葉を述べてやってもいいだろう。手紙に書こうとしたが、うまく書けなかったため諦めた。こういうことは直接言った方がいいだろう。そう思いながらいつものお茶会の会場に向かった。

鬱々とした曇り空の下、お茶会のテーブルに突っ伏して、アリスが死んでいた。

なぜ!?なぜ!?どうして!?
オレは気が動転し、彼女のティーカップを持って駆けだした。
家に飛び込み、ドアを閉めた途端、慟哭し、泣き崩れた。
こんな「特別な日」が来るなんて思わなかった。オレにとって必要なのは、なんでもない、当たり前の日々だったのに……。

ミッション

・愛するアリスを殺した殺人犯を見つけ出さなければならない。