銀の瞳の君を求めて
つれづれ

このサイトに足を運んでくだすった方というからには、既に本作『銀の瞳の君を求めて』を体験されたことと思う。拙作に触れてくだすったことを、何よりもまず御礼申し上げる。

後書きなどと言うと、なんとも面映ゆい。本作は体験こそが全てであって、となれば作品を完成させたのは体験者である諸兄に他ならない。よって、感想戦の全てが後書きに相当するものであって、筆者が四の五のと述べるのは適当でないように思う。

なので、これは今までの経緯を徒然と述べたに過ぎない。
そのようなものだと思し召して、読み進めてほしい。
時間が許すのなら。

2020年の08月23日に、テーブルトークRPGのセッションをした。卓参加者はマーダーミステリーの猛者たちで、セッション終了後にいろいろと聞いた。
筆者が新作マーダーミステリーを作るならどんなものを体験してみたいのか? ヒアリングしたのだ。

いくつかの提案から、次回作で反映したい意見を拾った。

①『前半→後半 大きな変化』
②『初心者呼び込み用 1vs1』

ここでいう大きな変化とはルールの変更、目的の変化などを指す。納得力のある大きな変化は、激動のさなかにある体験感を演出できる。このとき納得力が低いと、御都合で独りよがりなものとなる。

①について類例としてあがったのは「プレイヤーキャラクターがロボットであること。ただし本人は気づいていない」というものだった。
この場合の『大きな変化』とは「自分がロボットだと気づく」こととなる。このような構図は、様々なシチュエーションがあり得る。

自分の正体を知る。自分の属する社会の正体を知る。自分を取り巻く世界の正体を知る。自分や、自分が属するコミュニティの本質に気づく。これが大きな驚きとなって、体験感となるのだ。

本作では、これが二重に作用する構図となっている。
「プレイヤーキャラクターが精神病患者である。ただし本人は気づいていない」
「プレイヤーキャラクターを取り巻く環境が精神病院である。気づいていない」
これらに気づくタイミングが、前後半の区切りとなる。

本作は、一方が精神科医であり、もう一方が精神病患者なのだ。ヴェルナーはジョナサンの正体を知っているのだ。ただし、ヴェルナーはジョナサンが見ている世界は知らないのだ。ヴェルナーにとっても未知の世界はあるのだ。
このような、錯綜する状況、認識を、体験感に仕立てたかったのだ。

初心者呼び込み用というのは、まずもって少人数が望ましい。多人数の予定を調整することが、すでに初心者向きでないのだ。

②についての趣旨は「マーダーミステリー初心者にもやりやすい」タイトルが増えてほしいというものだった。
これはルールレスな進行で叶えようとした。本作はルールらしいルールは「ページ進行を相手が指示すること」以外にはない。実はあるが、ルールと意識されないように工夫をしてある。

ただ、ルールレスなら初心者向けかと言うと、疑問が残る。そもそも、本作はマーダーミステリーの基本を抑えていない。犯人もいないし、トリックもない。1点のみ推察要素があるだけだ。なので、マーダーミステリー初心者向けのタイトルという要望に適切な作品ではない。この点は反省している。後悔はしていないが。

実はヴェルナーは周回できる。担当医として長く勤務しているという設定を加味することで、ジョナサンをリードする立場として参加できる。こうなると、ヴェルナーはつまりゲームマスターだ。シナリオを全て把握しており、ジョナサンの行動指針も理解している。
タイマンシナリオとして機能するのだ。

この点は、マーダーミステリー未体験者にリーチする機会の多い作品にできたと思う。本作がマーダーミステリーかどうかはさておき。

そうそう、本作には着想の起点となった作品が2つある。
ファンタジー小説の金字塔『果てしない物語』と、
幻想怪奇推理小説の奇書『ドグラ・マグラ』だ。

『果てしない物語』については、作中作の構造、両世界の行き来においてフォントを変えるなど、大いに参考にした。勇者ヨナタンの冒頭小説などもそうだ。

『ドグラ・マグラ』については、作中作中作中作……、と、どれが、どの意識が本当の自分なのかが堂々巡りする構造となっている。あまりに作中作を入れ子構造にすると、体験的には理不尽がつのるので、これは意識して加減した。ただ、精神病患者として自身の正体が明瞭でない点などは、ほぼ踏襲している。

本作は『ドグラ・マグラ』をモチーフにしている以上、もっとどす黒いものとなるはずだった。そうでなくなったのは、妻・かすみの存在が大きい。

本作制作中に、かすみが「わたしもやってみたいな」と言ってくれたのだ。テーブルトークRPGもマーダーミステリーも敬遠するかすみが、本作はやってみたいと言ってくれたのだ。
この一言が、2人が寄り添い、ハルの行方を求めるという優しい物語の骨子となった。

かすみと筆者とで、1対1のセッションをしたことは、人生の成果となった。筆者が本作を書きながら思っていたのは、「今の幸せがこぼれ落ちてしまったら、どうすればいいのだろう?」という不安だった。この幸せをそっと握って放さずにいたいという願望だった。

かすみは、勇者ヨナタンとして、不安に向き合い、幸せの欠片を手にして、欠片を手放すまいと想ってくれた。
伝えたい想いがあって、それがきちんと伝わったのだと、確信が持てたかけがいのないひと時だった。

本作は、かすみに贈った25000字のラブレターという側面も、またあるのだ。

本作を体験なさったあなたは、あなたの大切な友人、恋人、伴侶、家族と、向き合う時間となっただろうか?
向き合ったのなら、それは優しい想いを撚り合わせることとなっただろうか?

もしそうだとしたら。
筆者として法悦これに過ぎたるはない。

どうかその想いを、次は全てを見通すヴェルナーとなって、また別の誰かに紡いでみてほしい。
その度に、あなただけの新しい旅が始まるだろうから。

謝辞

本作制作のきっかけをくだすったジミーさん、キイロさん、美亜さんに、感謝を。
拙作を表舞台に引き上げた久保よしや氏に、尊崇を。
制作に関わった全てのスタッフに、慰労を。

そして、しゃみずいから、妻・かすみに、
本作に込めた想いの全てを捧ぐ。

おすすめBGM

もしあなたがヴェルナー役でまた他の誰かとこの物語を紡ぐ際には、ぜひ以下でご紹介するBGMを使用してみてください。
※ジョナサン役の方のネタバレを防ぐため、BGMの切り替えはあなたが行うようにしてください。

ファンタジニエルでの音楽候補

現実世界での音楽候補

手紙を読む時の音楽候補