銀の瞳の君を求めて
作者しゃみずいさんインタビュー

某日某所、2021年春のゲームマーケット大阪を直前に控えた時期に。
StudioOZONのhumaから『銀の瞳の君を求めて』作者しゃみずいさんに向けて、インタビューをおこないました。
制作秘話、過去の作品や活動、そして家庭についての赤裸裸なことまで。
縦横に飛躍する対談をお楽しみください。

小学5年生からのTRPGシナリオ執筆

―今日はよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

―まずは『銀の瞳の君を求めて』を制作した現在に至るまで、どんなゲームを遊んできたかお聞かせください。

はい。手前はですね、シナリオを書き始めて30年なのですが、皆様ご存じのグループSNE様の『ロードス島戦記RPG』で小学5年生からゲームマスターをやり始めまして。
プロの方のリプレイやシナリオを分析して、見よう見まねで作り始めたのが最初でした。

―小学5年生からですか!

はい(笑)今ではおじいちゃんになって孫娘もいるわけですが。
2番目の孫娘なんかは、小学3年生からTRPGのシナリオを書いてますからね。

―すごいですね!(笑)

私が嫉妬するような内容で、びっくりしましたよ。いかしたプロット書きやがって(笑)
このアイデア、じいじにくれ!ってお願いして(笑)そしたら「だめだよ~!」って言われて(笑)

―なんと(笑)

それで孫娘が「しょうがないな~。じいじと一緒に作ってあげるよ」なんて言ってくれて(笑)
TRPGのシナリオを4作連作のキャンペーンシナリオとして一緒に作りましてね。じいじに似た孫娘になっちゃいましたね。

―あはは!(笑)

話を30年前に戻して、そうやって学生時代はずっとTRPGをやってたんですけど、ある時、一時的にTRPGから離れる時期がありまして。
カードゲームの『マジック:ザ・ギャザリング』にドハマりしてしまいました。
古典的なファンタジーの世界観でしたので、『ソードワールド』などで遊んできた私には馴染みやすかったんですね。

―対戦型ゲームというだけでなく、魔道書であるカードの束を作って、自分好みの魔法使いになるっていう、なりきり要素も良いですよね。

むきになって頑張った結果、プロツアーにも行きまして。エキスパンションは『インベイジョン』の頃ですね。
2000年のプロツアーロサンゼルスで、クイーンメアリー号っていう船上のホテルが会場でして。大きなダンスホールで大会をやってました。

―おお!カッコイイ!

それが大学生の頃ですね。
その後、大学を卒業したら実家のある関東に戻って来まして、父の会社の建設業で働くことになりました。
働き始めると、マジックともだんだん疎遠になっちゃったんですよね。そんな時に、TRPGともTCGとも全く関係ない友人から、TRPGをやりたいって言われまして。

-お、戻って来ましたね。

「クトゥルフをやりたい」って急に言われて。その頃の私の中でクトゥルフといったら、ラブクラフト御大のコズミックホラーなわけですよ。
人間の知性では知る由もないおぞましい真理が世界のすぐ裏側にある、みたいな世界ですよ。それを説明したら、「知ってる」って言うんですよ!ホントに!?どこで知ったの?って。

―ああ!ちょうどニコニコ動画で流行りだした頃ですね!

そうそう!そこのリプレイ動画を見て、演劇的なストーリーの人物になって、恐怖に打ちのめされたり、仲間を守ったり、裏切ったりする、そういう翻弄されるドラマの主人公になってみたいって言うんですよ。

-ええ、ええ(笑)

それを私に言うか!いい度胸じゃない!と(笑) 心をえぐるようなシナリオを用意してあげよう、と邪悪なしゃみずいが出てきちゃったわけですよ(笑)
よし分かった、いつやる?って聞いたら、2週間後って言うんで、パパっとシナリオ1本書きました。昔取った杵柄といいますか、10年近いブランクがあってもちゃんと書けるもんですね。4万字くらいのシナリオでした。

-そこでまたTRPGに復帰したんですね!

そうそう。で、その人たちと遊んだ後、「面白かった!」って言ってくれて。「続きをやりたい!」って言われて、続き!?ってなって(笑)
一緒に卓を囲んだ人が、次は別の人を呼んできてくれて、どんどん輪が広がっていったんですよ。そしてさらに、シナリオを体験した人たちが、プレイ中にハラハラと涙をこぼしてくれるわけですよ。作り甲斐があったなぁ。

―泣かせるシナリオなんですね!

しゃみめはその涙のひとしずくをもらって、次のシナリオを書くエネルギーにするわけなんですよ。
で、しばらくすると、「しゃみさんみたいにゲームマスターをやってみたい」って人が出てきて、「いいね!おやりなさいよ。シナリオは使っていいよ」と言って、両面印刷してホッチキスで留めたシナリオをあげたんです。
「このシナリオ、他の友達とも遊びたい」って言ってくれる人が出るたびに、シナリオをあげてたんですよ。
そしたら、コピー本がさらにコピーされて広まっていって、北は北海道から、南は九州まで、コピー本がボロボロになりながら広まっていったんですよね。

―はー!すごいですね!

そうして、最初の頃から一緒に遊んでいた桐部さん(しゃみずいさんと『ヤノハのフタリ』等を制作されたクリエイター)から声がかかって、「シナリオの同人誌を一緒に出そうよ」って言ってくれて。
私も「自分で本を出すのが夢だったんだよね!ぜひ頼むよ」って言って、一緒にやることになりました。

―それが桐部さんと一緒に創作する始まりだったんですね。

そうなんです。『クトゥルフ』や『鵺鏡』なんかもやったし『ゆうやけこやけ』とかいくつかのTRPGのシナリオ冊子を出したんですけど、桐部さんがインコグラボっていう商業作品を出しているところの先生にも献本して見てもらったんです。
そして桐部さんは認められて、インコグラボのメンバーに入って活動するようになったんですよ。その後にそこの先生が「このシナリオを書いている桐部さんのご同輩も誘いたいんだけど」と言ってくださったそうで。
しゃみめはもちろん「ぜひ喜んで!」となりまして。そのデザイナーグループに入れてもらったんですよ。

―それが3年前くらいなんですね。

そう。それで、本業は建設業をやりながら、副業で書き物のお仕事をやらせてもらって。そもそも書くことは好きだし、書いたら面白いって言ってくれる人たちがいて、お金ももらえて、これは楽しい!と、シナリオを書き続けていたんです。
そんな中、おととしの8月くらいにきつねさん(※Studio OZON代表。各種マーダーミステリーのプロデュースを行っている)が「しゃみちゃんさぁ、お話書くの好きだよね?」って言ってきて。「うん、そうだね」って。「じゃあ、遊ぼうよ。マーダーミステリーって言うんだけど」となりまして。
『王府百年』を遊ばせてくれたんです。それで感動して。いや~面白いゲームがあるもんだね~!コミュニケーションゲームだね!と。

―ええ、ええ。

ひとりひとり役があってハンドアウトがあるのはTRPGっぽいし、その中に裏切者がいるってのは人狼っぽいし、面白いコミュニケーションゲームだね!満喫したよ!って言ったら、「そこまで分かってるんなら書けるよね?」って(笑)
は?何が書けるって?って(笑)

―むちゃな(笑)

リミットは?って聞いたら「じゃあ、2週間かな」って言われて(笑)

―それでできちゃうんだ(笑)

2日くらいでプロット書いて、残りでシナリオとマスタリングガイド書いて、それが『ヤノハのフタリ』になったんですよ。

―いきなりでよく書けましたね。

TRPGってプレイヤーの反応、動きを考えながらシナリオを書くんですけど、そういう意味ではドラマのシナリオを書いている人たちよりもTRPGのシナリオを書く人たちの方が、マーダーミステリーを作りやすいということはあったのかもしれないですね。
越えなきゃいけないステップが少ないんだと思います。中国の名作と言われる『王府百年』や『純白の悪意』を遊んで、それを頭の中で分解して、再構成がしやすかったんですね。

大事なのはプレイヤーの気付きを作ること

―『ヤノハのフタリ』って初作品なわけじゃないですか。ネタバレしないように伏せますけど、普通じゃない要素のある作品ですよね?
さらに今回の『銀の瞳の君を求めて』も、もはや普通のマーダーミステリーではなく、ストーリープレイングって新しいジャンル名を付けてしまうくらい、新しい体験感がある遊びですよね。
どうやったらそういうものが作れるんですか?

常にどうすればもっと面白くなるかは考えているんですよ。
例えば、マーダーミステリーを遊んでると、プレイヤーの中にドス黒い悪人がいるとかあるんですけど、悪人に感情移入できない人もいるんですよね。
そういうところを解決できる策は無いか?って考えたりとか。

―作品を作るときにどこから作ります?一番大切なところってどこですか?

プレイヤーの気付きです。
プレイヤーが劇中の散らばった情報を整理して、自分でシナリオの謎の真相に気付いたとき、驚きとともにプレイヤーとキャラクターの垣根がなくなって、ぎゅっと一つになる瞬間を作れるんですよ。
その一瞬、プレイヤーはキャラクターに完全に同化して、世界に没入するんですよ。

―なるほどね~!その気付いた瞬間に世界の色が変わって見えるという劇的体験を中心においてるんですね。

その一瞬を作れれば、シナリオは完成したも同然なんですよ。

―そこから逆算して作ってるから、しゃみずいさんの作品は面白いんですね~!

もうTRPGのシナリオは1,000本以上書いてるんですけど、私の書くものは大体そういう作りで書いてきてるんですよね。
恐れや幸せだったり、プレイヤーの気付きをまず考えて、それをシナリオの中盤以降に配置して、そこから全体を作っていくんですね。
その気付きの後、贖罪や後悔などのドラマも面白くするのが大事ですね。あと、気付きを最後にして、そこで終わるってのもあります。これは、落語のオチ、下げの技術に近いやり方ですね。

―その積み重ねがあるから、普通じゃない作品を作れるということなんですかね?
『ヤノハのフタリ』もそうですけど、『銀の瞳の君を求めて』も、かなり変わったゲームですよね。
普通はマーダーミステリーってペラ紙のハンドアウトを渡されるじゃないですか?それが、1冊の本を渡されるって、いったいどういうこと!?って。
その時点から特殊な体験が始まってて、感想を聞かれるとなんと答えていいか困るというか、もう、「すごいんだよっ!」としか言いようがない。他の人たちの反応はいかがでした?

プレイした人たちが、ハラハラと泣き始めるんですよね。御馳走さまでした。

―そうですよね!僕も夫婦でプレイしたんですけど、後半ボロボロに泣けてきちゃって。
でも、これ僕が20代の頃だったらきっと良さが分からないだろうなって思うんですよね。
だから、対象年齢が「35歳以上推奨」って、あー分かるー!ってなったんですよね。こんな対象年齢が設定がされているゲームって見たことないです。

これはね……失うことを恐れる人には響くんですよ。今掴んでいる幸せをとりこぼしてしまったら、どうなるんだろう?ってことを想像できる人には届くと思うんですよね。
だから、私も10年前では書けなかった。今だからこそ書けた作品なんですよね。

家内のために書くことにした作品

―奥様とはいつ結婚されたんですか?

15年前ですね。

―ということは、TRPG復帰される前ですよね?

そう。まだカードゲームに夢中だった頃ですね。

―奥様とはゲームをやるんですか?

ボードゲームは少しやりますね。
私の大好きな「カルカソンヌ」とか、「キングドミノ」とか、あとは「世界の七不思議」とか。

―TRPGやマーダーミステリーは一緒にプレイしないんですね?

そうなんですよ。一度やってみたんですけど、だめでしたね。
プレイした後に「楽しかったけど、私は私以外にはなれないや。私は私」って言われました。
無理して演技しないで、自分のままでも良いんですけどね。恥ずかしさが勝っちゃうらしいんですよね。

―そうなんですね。こんなにシナリオ書いているけど、なかなか遊んでもらう機会がなかったんですね。

なので、私は1回しか家内とTRPGをやったことがないんです。
もうプレイしないって言われちゃったので。
以降は私がシナリオを書くときは、話して聞かせて、内容を相談してるんです。私の頭の中では繋がってる話でも、家内に聞かせてみると、「話が繋がってなくて、飛んでない?」って指摘してくれるんですよ。
それで軌道修正しながら一緒に書いてるんですよね。

―へー。書きながらデバッグしているようなものですね。

そうなんです。二馬力なんです。
ただ、マーダーミステリーの『ヤノハのフタリ』を作るときはちょっと違いました。
マーダーミステリーって物語というよりも、設定の塊なので。話しても断片的になって物語にならないんですよね。
だから『ヤノハのフタリ』の時はなかなか力を借りることができなくて、苦労しましたね。

―そうなんですね。
『銀の瞳の君を求めて』は、奥様のために作ったとお聞きしたんですが、TRPGもプレイしない、マーダーミステリーもプレイしないという奥様に対して、この作品を作ろうと思ったきっかけは何だったんですか?

それは、いつもみたいに新しいゲームのアイデアを思いついて、家内に相談しようとした時なんですけど、「2人用の対話型のゲームなんだ」と話したら、「ちょっと待って。やめて」って言われて。

―ほう。

「そのゲーム、1対1なんだよね。あたし、あなたとならこのゲームできると思うんだ……」って言ってくれたんですよ。

―へー!

え、ほんとに!?って思って。
今まで一緒に遊んでくれなかったけど、私となら恥ずかしくないからプレイできるって言うんですよ。そっかー!って思って。

―なるほどー!

じゃあ、頑張って書くわー!ってなって、家内のために書くことにしたんですよ。

―しゃみずいさんは、こんなにたくさんのシナリオを書いてきてるわけですけど、なかなか奥様には遊んでもらうことができなかったけど、初めて、奥様から遊んでみたいって言われた特別なゲームなんですね。

ほんとね、はりきっちゃいましたよ。

―今まで無かったからですよね。どうしてこういう内容にしようと思ったんですか?

それはね……自分の持っているものしか出せないんですよ。
どんなキツイ話も、どんな楽しい話も、どんな悲しい話も、自分の中の一部分をふくらませて出しているだけなんですよ。

―どういうことですか?

うちの家内は病気で手術をしたんですよ。
その手術は本当に怖かったんです。お医者さんは術中死の可能性を話さないといけないんですよね。
最初、1/60だって言われて、まあ1/60なら引かないだろうって思ってたんですけど、手術の日が近づくにつれて改めて1/20くらいですって言われて、5%じゃないかと。
TRPGのダイスならよく出る数字ですよ。さらに手術の直前、最後の説明の時には1/6ですって言われて、ロシアンルーレットじゃないか、って。それを私に言うの?って……。手術は成功したんですけどね。

―そうだったんですね。

それ以来毎日、意識しています。
メメントモリですよね。想うこと、祈ることしかできなくて、その気持ちをこの作品にぶつけたんです。

―だから、こんなに凄まじい作品が出来上がったんですね。

そう。これは私から家内への、25,000字のラブレターなんですよ。

しゃみずいさんの想いが込められた『銀の瞳の君を求めて』は、テストプレイ段階から話題を呼び、彼の友人たちの手によって製品化が進められました。
品質を妥協して大量生産するのではなく、少数生産で最高のものを作ろう、と、紙質や装丁だけでなく上製本にもこだわり、加工もスタッフの手によって1部ずつ丁寧に作られました。
2人用ゲームで、1人は何度も遊べる仕様になっています。
ご縁があって手に入れることができた方は、ぜひ大切な家族や友人と一緒に遊んでいただければと思います。