STORY

睡魔に誘われて 第一話

微睡みの過ごし方

新緑と涼やかな風が心地よい日々。いつからか過ごしやすい時期が一瞬で過ぎ去ってしまうような気候になってからは、「過ごしやすい」というだけで少し嬉しくなる。仕事終わりか、偶の休日か、気まぐれに立ち寄るカフェに今日も足を運ぶ。
東京の中野にある、「青」をコンセプトにした青色喫茶Oz。
マーダーミステリー作品とのコラボドリンクや読み合わせカフェなど、日によっていろいろなタイアップイベントを行っているこじんまりとした喫茶だ。
全体が青で統一されていて、これから暑くなる一方の時期に涼し気な景観である。いわゆる“推し活”向けのフォトスポットが用意されていたり、席はシンプルながら店内のインテリア小物を眺めるのも意外と楽しかったりする。大幅なレイアウト変更はそうそう無いが、よくよく観察すると、見慣れないインテリア小物が増えているものだ。
店員の青木さん━━青色喫茶Ozの店員は全員「青木さん」である。ウサギ耳のデニムハットがチャームポイントらしいが、最近見かけるタイミングが減っているのが寂しい。とりあえず「店員さん」と呼びかける時は「青木さん」と呼ぶのがこの喫茶の隠れた、ちょっとした“ツウ”である……と、勝手に思い込んでいる━━にドリンクを注文し、提供されるまでの間にふとインテリア空間を眺める。
おっと……あるではないか。新顔が……思わず口角が上がってしまい、自分はどういうスタンスでここを眺めているのだろうと、我に返って更に笑いが込み上げてきた。
喫茶の青木さんたちの戯れで増えたり減ったりするらしいこのインテリア展示スペースに、青い小さなゾウのインテリア小物が追加されていた。いつからあるのか知らないが、少なくとも自分は今認識した。最近、なんだか可愛いゾウが多いもんな。ほらあれ、ひと昔(もしかしたらふた昔)前にそこそこ手広く展開されていたハンバーガーチェーン店のマスコットで赤いゾウがいたなあ。
某「遊べる本屋」コンセプトの複合型雑貨店でそのマスコットが売られていたのをついこの前に見かけたものだ。チェック柄もあって思った以上に可愛かったのが印象に残っている。
……脱線してしまった。とにかく、こういう風にスタッフの遊び心や、それによってふとした記憶や感情が揺らされるのがちょっとした楽しみだったりする。
そんな風にぼんやりと時間をぜいたくに使っていると、青木さんからドリンクを渡された。ただの雑談で「インテリアに可愛いゾウがこっそり追加されているんですね」と振ってみると、「あれ、ホントだ。今気づきました!」と明るく返された。別の青木さんが持ち込んだのだろう、とほんの二、三言歓談し、席に着く。
とりあえず適当な席に座ってひと口コップに口をつけた。新提供されたティーソーダは喉をさっぱりさせてくれて、体の中に溜まっていた熱が蒸発するようだ……というのは、さすがに大げさか。
イベントがある日は賑わいが溢れるが、タイミングによってはとても静かで落ち着いた空間になる。個人的には、そのどちらの雰囲気も青色喫茶らしいと感じられるのがこの場所の良い所だなと思っている。今は、ちょっとした時間つぶしで立ち寄ってみた今日の自分にとって最適な、適度に羽を伸ばせるゆったりとした雰囲気だった。
ふう、と一息ついて、おもむろにスマートフォンを取り出す。なんとなしに眺めていると、ふと「睡眠の質」という話題が目に入った。現代人、睡眠を犠牲にしすぎだよなぁ……と思うが、盛大なブーメランを放っているかもしれない。その話題を流し読みしていると、夢見の話も混ざってくる。そういえば昔、夢占いというものも流行ったような気がする。なんだかんだライトな話題として好きな人が多い印象だ。
夢かあ……とつい口から零すと、青木さんの耳に届いたらしく、話題として拾ってくれた。
「これからどうしたいかっていう夢ですか?」
いえ、寝てる時の……と訂正する。そういえば最近、夢を見てない気がする。夢を見ないほどに深い眠りについているということだから、いいことなのかもしれない。けれど少し前にはうっすらと記憶に残る程度には夢のことを覚えていた気がするので、なんとなくつまらない。
そこから、寝ている時の夢に色がついているかだの、声が聞こえているかだの、他愛ない夢談義に少し花を咲かせた。付き合ってくれてありがとうという気持ちしかない。
自然と話題がひと段落して、また穏やかな静寂が店内に満ちる。ささやかな音楽に包まれ、暖かな窓辺の日差しを目にしていると、つい瞼が重くなってきた。
……ううん、このまま眠気を受け入れても……いいかな?

担当:繭

――Ozの世界へようこそ。
依頼文は、青色喫茶Ozの掲示板に貼り出してありますよ。
ぜひ、あなたのお力をお貸しください。
あなたの一言で、Ozの世界は変わってゆきます。その未来を見たければ、またここを訪れてみてくださいね。