STORY

青空まであと一歩 最終話【個別リアクションE:古本屋へ向かう】

先程電話をした者ですが

遥の真実を知った今、叶探偵の協力者たちは一丸となってエルの行方を追っていた。
飼い主である遥が亡くなり、自身の命も尽きようとしている今、エルは何がしたいのだろう?
現在最も有力な情報は、古本屋の店員が度々エルを見かけたというものだ。
その情報を手に入れた張本人でもある【佐波里玄盛】と【白井花】、【北楯さくら】は、再び古本屋へと足を向けた。
「お邪魔するぜ」
古本屋の扉を開けて、三人が店内へと足を踏み入れる。すると、先程エルのことを教えてくれた店員がひょっこりと顔を出す。
「いらっしゃ……あれ? さっきの。何か忘れ物ですか?」
さて、どうしたものか。
協力者たちは、ここに来るまでの間に話し合い、遥が取り置きをお願いしていた絵本『空の向こうのまち』が気になるということで合意していた。
遥の父親である虹村悠が書いた絵本の内容が、エルを探す手掛かりになるかもしれない。
だがあの本は、あくまで遥が取り置きをしていたものであり、店員は読ませてはくれないはずだ。
「あー……っと、そうだなぁ、エルは今日は姿を見せたかい?」
玄盛が世間話で話を繋ぐ。最近よく現れるというエルの情報、もし店員が今日も見ているというのならそれに越したことはない。
「エルちゃんは今日は見てないですね。こんな雨ですし、今日は来ないんじゃないですか?」
外は雨が激しくなっている。嵐がくるのもそう遠くないように思われた。こんな中、病気を持っているエルが動けなくなっているかもしれないと思うと、居ても立っても居られない。
「玄盛さん、こうなったら仕方ありませんね。玄盛さんが愉快な舞を舞って、店員さんの目をひきつけている間に、本を持ち出しましょう」
真剣な表情をしながら、さくらがとんでもないことを言い出した。
「なんでだい!? どうして方法が舞なんだい!?」
「そこが気になるんですね」
さくらたちがよくわからないやりとりを繰り広げる中、花が店員に近づいていく。
「本!! 読ませていただけませんか?」
ビシッと指をさし、花が店員へと訴えかける。一瞬店員はきょとんとした後、何かに気づいたように口を開いた。
「あ! もしかして、さっき連絡をくれた方ですか?」
連絡? はて、なんのことだろう? 三人は黙って店員の話を聞き続ける。
「ちょうど今、遥ちゃんのお父様にも連絡が取れまして、こちらの本をお渡ししていいって確認も取れてますよ」
そう言いながら店員は、後ろの棚から『空の向こうのまち』を持ってくる。
「私、連絡なんてしてませ……」
「あぁいやいや! ありがとう! そうかそうか、遥ちゃんのお父さんにも連絡が取れたのかぁ!」
正直に答えそうになった花の言葉を遮るように、玄盛が店員の前に躍り出た。その後ろでは、さくらが花を羽交締めにしている。
「で、ちょいと中身を確認させてもらってもいいのかな?」
「あぁ、もちろん構いませんよ」
なんとか誤魔化せているようだ。玄盛は絵本へと手をかける。
『空の向こうのまち』。この物語は、主人公の少女が、天国に旅立ってしまった飼い犬と、夢の中で旅をする物語だった。
はじめのうちは、飼い犬との別れによる悲しみに暮れる少女だったが、夢の中で沢山の旅をしていくうちに、段々とその悲しみを乗り越えていく。
失った悲しみよりも、出会えた喜びが上回っていくことを実感した少女が、飼い犬との思い出を胸に前を向いていく。
「奥付を見てみましょうよ。あぁ、やっぱり著者は虹村悠。遥ちゃんのお父さんで間違いありませんね。発行されたのは、今から四年前か」
そんなに前から、遥の父が作品を書くことができなくなっていたことに、さくらは思いを馳せる。遥の病状が少しずつ悪化していくことに、耐えられなかったのだろうか。
「こりゃ面白いねぇ」
ページをめくっていた玄盛の手が止まる。
そのページは一面真っ白。雪山の世界を訪れた二人を描いていた。一見少女しかいないように見えるが、よく目を凝らしてみると、真っ白な犬が隠れているのがわかる。
「ん〜〜??」
玄盛の隣で、花が必死な形相でその犬を探していた。
「お嬢ちゃんも読んでみるかい?」
花は嬉しそうに本を受け取ると、パラパラとページをめくり読み始めた。すると突然、
「特別なことをしなくてもぉ! そこにいるだけでぇ!」
とてつもなく大きな声と、小学生のような棒読みで、絵本の文章を音読し始めた。
「あ、続きは玄盛さんがどうぞ」
「あ、その次は私で」
なぜか音読を勧められた玄盛は完全に面を食らっている。さくらの準備は万端なようだ。突然の大朗読大会の開催に、店員も困惑するばかりである。
四者四様に大騒ぎをしている店内、そこにすっと響き渡る声があった。
「先程電話をした者ですが……」
見るとそこには、叶探偵が立っていたのである。

担当:為房大輔

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