STORY

青空まであと一歩 最終話【個別リアクションB:遙の墓へ向かう】

甘さは半分

自身が最後をむかえる場所。エルはその場所にどこを選ぶのだろう?
最初に浮かんだのは、やはり遥の隣だった。自身を最も愛してくれた遥とともに、エルは眠りたいのではないだろうか?
そう考えた叶探偵の協力者たちは、中野から少し離れた墓地を訪れた。そこには、虹村家と書かれた墓がたっていた。
「やっぱり、本当なんだな」
【中村善次郎】が墓石に刻まれたその文字をしみじみと見つめる。
「さくらさん、どうしたんだい?」
同行していた【北楯さくら】が先程からきょろきょろと周りを見渡している。
「あー、いえ。エルちゃんは見当たらないなぁっていうのと、あと、花ちゃんの姿も見えなくて」
一緒に墓地に行くはずだった【白井花】。向かう前に用事があると言って中野で別れ、現地で集合する手筈だったのだが、まだ到着していないようだ。
「まぁそのうち来るんじゃないかな。でも、ここにはエルは来てないかぁ……そもそも、猫に墓って概念はあるのかな?」
「そうですね。お墓も、私たちが誰かを想って作られた場所。エルちゃんが遥ちゃんを想う場所は、どこにあるんでしょうね」
さくらの言葉を聞いた善次郎は、遥の墓の前で両手を合わせた。
「……そうか。エルは、君との思い出を巡る大冒険をしていたんだねぇ」
「あ、そうだ。お花持ってきたんですよ」
さくらは手元に持っていた、青い花束を墓の花筒の中に入れる準備を進めていく。
「お水をいただけるかわからなかったんで、ペットボトルで買ってきたんですけど……よく考えたら、これだけ雨が降ってたら関係なかったかな」
遥の依頼を受けてから、天候は荒れていく一方で、確かに放っておいても花筒の中は水で満たされていた。
「いや、きっとその気持ちが大切なんだよ。さくらさんが持ってきた水を入れてあげよう」
さくらは小さく頷くと、花筒に水を注ぎ、そこに花を供えていく。
「なんて花なんだい?」
「アイリスです。私たちの勝手な願いかもしれないけれど、遥ちゃんのこれから先に、きっと希望はあるはずだから」
「あぁ、勝手だろうがなんだろうが、遥ちゃんは喜んでくれるよ」
「……そうですね」
「……らちゃ〜……」
「さ! 遥ちゃんにもっと喜んでもらうためにも、エルちゃんを探しに行かないとですね!」
さくらはぐっと拳を握り込み、決意を新たにした。
「さ……ら……〜ん」
「なぁ、さっきから気になってるんだけども……何か聞こえない?」
善次郎が怪訝そうな顔でさくらに尋ねる。言われてみれば、先程からうっすらと何かの声が聞こえている気がする。
二人がその声のする方向を見てみると、傘をさしている誰かが凄い勢いでこちらに向かってきている。
「さくらちゃ〜〜ん!!!」
花だった。
「花ちゃん、あんた何やってんの?」
全力で走ってきたのか、息切れをしている花に向かって、呆れたようにさくらが問いかける。
「チョコ……」
「チョコ?」
善次郎は何が何だかわからないという様子で見つめている。
「チョコ買ってきた!!」
「あんた……」
見ると、花の手には小さな箱が握られている。全体が紺色で、そこに星空が描かれたパッケージ。
「遥ちゃん、これね。いろんな星の形をしたチョコなんだよー! 土星とかもあって可愛いの。遥ちゃん、星が好きだって私知ってるんだから!」
花は、星空の描かれた箱を遥の墓に供えると、箱の中から一つ、星型のチョコを取り出した。
「一緒に食べようって約束したもんね」
そう言うと花は、手に持っていたチョコを口の中に放り込んだ。
「甘いなぁ〜……でもね、遥ちゃん。このチョコ実はもう一種類あるの。青空の箱に入ってる、太陽とか雲の形したやつ」
花が身振り手振りで、太陽や雲の形を描いていく。
「でも、今はあげない! エルちゃんが見つかったら、一緒に食べようね。だから今は、まだ半分!」
「花ちゃん……」
「ほら、さくらちゃんも! 善次郎さんも食べて! 皆で一緒に食べた方が美味しいよ!!」
花に勧められるまま、半ば強引にチョコを口に運ぶさくらと善次郎。口の中にチョコの甘さが広がっていく。

『とってもおいしいね』

どこからか聞こえた気がしたその声は、口の中で溶けていくチョコのように、雨音の中へと消えていった。

担当:為房大輔

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