青空まであと一歩 最終話【個別リアクションA:虹村家へ向かう】
消えた思い出
「また……きちゃったなぁ」
【北楯さくら】の視線の先には、虹村の表札。叶探偵の協力者たちは、遥の家の前に立っていた。
エルが最後に向かう先は果たしてどこなのだろうか。それを考えたときに浮かんだのがこの場所だった。
エルが最も長い時を過ごし、最愛の少女、遥との思い出が眠る場所。
遥の自宅の周辺を訪れるのも、これで三度目。そういえば訪ねていくのは初めてのことだった。
インターホンを押してしばらくすると、か細い男性の声が聞こえてきた。虹村悠、遥の父親の声だった。
事情を説明し、協力者たちの目指す遥の部屋へとあげてもらう。
最初は不審そうにしていた悠だったが、
「私は、どうしても遥ちゃんとエルちゃんを会わせてあげたいんです!」
という【白井花】の言葉におされてか、その言葉に嘘はないと感じ取った部分があったのか、遥の部屋へと案内をしてくれた。
扉を開けると、そこには実に女の子らしい部屋が広がっていた。ベッドの枕元にはぬいぐるみが並び、勉強机の上には可愛らしいデザインの筆記用具が一面に転がっていた。
よく見ると、棚や引き出しにエルがつけたものと思しき引っ掻き傷がたくさん残っている。
そんな中、一際目立っていたのが真っ青なカーテンだ。
「まるで一面の青空みたいだねぇ」
同行していた【新川保知】が、実際の外の風景と見比べながら呟いた。外はよどんだ曇り空、激しい雨が降っている。
「エルちゃん、いないね」
花が残念そうな顔をする。確かに、部屋の中のどこにもエルの姿は見えない。
「もしかしたら遥ちゃんの部屋に、エルと繋がりのあるものがあるかもしれません。大切なものがないか探してみましょう」
保知が気持ちを切り替えるように、周りに声をかける。
「そうね。エルちゃんとの思い出の品とかないかしら? 写真とか、一緒に遊んだおもちゃとか」
さくらもそれに呼応するように、周りの物を手に取ろうとするが、流石に悠の許可が必要だと思ったのか、悠の方へと視線を向ける。
すると悠は、遥の部屋を見回す協力者たちをよそに、怪訝そうな表情を浮かべていた。
「どうしたんですか?」
「あ、いや……遥の部屋に入るのは久しぶりなんですが、なんだか散らかっているような気がしまして」
言われてみれば確かにそうだ。ベッドの枕元にいるぬいぐるみたちも、何体かは床に投げ出されたように転がっているし、よく考えれば机の上の筆記用具も、一面に転がっているのはおかしい。
亡くなった少女の部屋ということもあって、こういうものなのだろうという先入観が働いていたのかもしれない。
「失礼ですけど、お父様がされたってことはないんですよね?」
保知が思い切って尋ねてみる。近所の人の話では、悠はだいぶ塞ぎ込んでいるとのことだった。娘の部屋で気持ちが荒ぶってしまっても仕方ないように思える。
「いえ……お恥ずかしい話、娘の部屋にはずっと入っていなかったので」
「そ、そうですよね」
保知も言葉に詰まってしまう。たとえ真実がどうであったとしても、これ以上踏み込むことなんてできはしなかった。
その空気を感じ取ってか、さくらが間に入っていく。
「なんにしても、なくなってる物がないか探しませんか? 私たちもエルちゃんに関わる物がないか知りたいですし」
「そ、そうですね。遥がエルと遊んでいたおもちゃだったら、確かここにお気に入りの猫じゃらしが……あれ? なくなってる」
玩具箱のような箱の中を探る悠だったが、そこにはお目当ての猫じゃらしは見当たらないようだった。
「お父さん! 遥ちゃんが楽しそうにしている写真はありませんか? お父さんと旅行をしていたり、エルちゃんと遊んでいたりする、そんな写真」
花の言葉を聞いた悠は、少しだけ思案したような様子を見せたが、本棚の中からアルバムを出して、花に見せるのだった。
「この写真はね、山の上にある天文台に一緒に行った時の写真です。遥は、星を見るのが好きでね……ほら、頭につけている星の髪飾り。ここで買ってやったんですよ」
そう言いながら、悠は一ページずつアルバムをめくっていく。
「あぁ……これなんか懐かしいですね。エルを飼うって決めた時に、ちゃんと今の気持ちを大事にしまっておけるようにって鍵型のバッジを一緒に買ったんです。これも大事にしてたなぁ。あ、こっちはね。公園でよく遊んでくれるおじいちゃんがいるんだぁって、必死にそれを絵に描いて……」
段々と、悠のページをめくる手から力が失われていくのを感じる。
「遥ちゃんが大事にしていたものは、どこにしまってあるんですか?」
黙って指を指す悠。その先には、少し大きな缶の箱が置いてあった。その宝箱の蓋は開いていた。
「見させてもらいますね」
一言断って、さくらが箱の中身を覗き込む。予感はしていたが、遥の宝箱の中身は空だった。
一体遥の部屋で、何が起こっているというのだろう?
担当:為房大輔
あなたたちの辿った道筋、体験した物語を、ぜひ他の方にも教えてあげてください。
合言葉を忘れずにね。
