青空まであと一歩 第三話【個別リアクションE:叶探偵を追いかける】
Dashing in the rain
とにかく叶探偵を追いかけようと雨が降る中なりふり構わず喫茶を駆け出す人たちは、しかし残念なことに彼の姿を早々に見失ってしまう。
咄嗟の判断でサンモール商店街のほうに駆け出す人と、虹村家周辺の方向に走る者とで二分された。
商店街は雨よけのルーフがあるからか、逆に人が多く集まっているように感じられる。
【後藤】は人混みを避けながら時折叶探偵の姿をみかけた人がいないか聞き込みも忘れない。
それらしい風貌の人が通ったというので、おそらく方向は合っているはずだと自分を鼓舞しながら先を進む後藤だが……つい、と視線を背後に向けて思わず半眼になる。
「……置いてっていい?」
「はぇ?」
後藤にそう問いかけられた人──【白崎羅々】の手には、たい焼き、たこ焼き、クレープが握られていた。
片手にたこ焼き、片手にたい焼きとクレープという、なんとも器用な持ち方でクレープを頬張っている。
「あっ、後藤さんもいります?」
「いりません」
さらに驚くべきことに、この白崎羅々、両手に食べ物を持ち、口に運びながら後藤と同じ速さで移動しているのだ。
どういう身体能力してるんだと後藤が突っ込みたくなったのは仕方ないことだろう。
「手分けしてもいいですが、有力かは……あっ!!」
「どうしました!?」
白崎羅々の大きな声にすぐさま反応する後藤が振り返ると、白崎羅々の視線の先には……
「あのラーメン屋さん、美味しそう〜!」
「…………………………………………………………」
「はっ! ち、違いますよ!? これは聞き込みに行くんで! そう、聞きこみ!」
「ソウデスカ」
もう置いていこう、と、光を失った瞳で一気に速度を上げた後藤であった。
*****
雨足が強くなってきている中、叶探偵を追いかけて走るもう一組の人たちは虹村家の周辺まで来ていた。
「ちょっ、花ちゃん! 傘、傘ってば!」
「あははははは! 楽しいからいらなーい!」
「楽しいじゃないよ! 風邪ひいちゃうから!」
雨よけのものをまったく持たず、直接浴びている状態で走り続け、途中からなにやらツボに入ったのか爆笑しながら駆けるのは【白井花】である。
そして、その後ろを律儀に白井花の傘まで持って走っているのは【北楯さくら】だった。
その後ろを、気持ち少し距離をとってついていく【ひな】の姿もある。
「もう、せっかく持ってきたのにー!」
「さくらちゃん優しい〜!」
「そう思うなら使って!?」
「……北楯さん、そういうテンションもいける人なんですね」
雨の中で走りながらの会話はどうしても声を張り上げないと通らない。
北楯さくらに対して、これまで落ち着いた印象を持っていたひなは少し意外そうに呟いた。
「叶さん、どっこっかな〜?」
「ちょっと、もう少し、目星をつけて、走りませんか……っ」
手ぶらで全力疾走する白井花と対照的に、傘をさしながらもう1本も携え、必死に走る北楯さくらでは消耗する体力も異なる。
「白井さん、元気すぎる……」
ひなも軽く肩で息をしているので、白井花がことさらに元気なのかもしれない。
呼吸を整えるためにも、少し周辺で聞き込みをしようとするが、コンビニなどのお店に入ろうにも約1名が全身びしょ濡れのため中に入るのは躊躇われた。
道端にいる人に全力疾走している男性を見なかったかと聞くが、特に見ていない、逆にさっき、女の子の高笑いが聞こえてびっくりした、という言葉を聞いた時は乾いた笑いを返すしかできなかった。
闇雲に進むにも……と周囲を見ていると、気がついたら3人は中野の駅前まで移動していることに気が付く。
ふと、とある1人の男性の後ろ姿にひなが近づいていった。
「……やはり、こちらにいらっしゃったんですね。──叶探偵」
*****
「「えっ?」」
「「えっ?」」
白井花、北楯さくら、ひな、そして話しかけられた男性の声がそれぞれ綺麗に被った。
「えーっと……?」
「すみません人違いでしたっ!!!!」
──この時のひなの走りは目にも止まらぬ速さで、白井花と北楯さくらは目を剥いたのだった。
*****
走り出したひなを追いかけて白井花と北楯さくら、そして商店街のほうから向かってきた後藤と白崎羅々は、なかのZEROの中にあるプラネタリウムの扉の前に立っていた。
「プラネタリウムだ……」
「ここに、叶さんが……?」
5人は顔を見合わせて、そっと扉の取手に手をかける──。
担当:繭
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