STORY

青空まであと一歩 第二話【個別リアクションE:少女との茶会】

真っ白な思い出

「お……あれが、遥ちゃんかな?」
【リク】が叶探偵事務所から下りてくると、階下にある喫茶Ozの客席に、少女がちょこんと座っている。今回の依頼人、虹村遥だ。
店員である青木が、「何か飲む?」とメニューを勧めていると、いそいそと二つの人影が近づいていった。
「こんにちはー!!!」
喫茶店という癒し空間に似つかわしくない大きな声が店内に響き渡る。青木がきっと睨みつけると、その大声の主【白井花】はぺろっと舌を出してみせた。
突然の挨拶に、遥が戸惑いながら応える。
「ど、どなたですか?」
「私、花っていうの。叶さんにお願いされて、エルちゃんを探すお手伝いをするんだけど……ねぇねぇ、遥ちゃんの好きな食べ物って何ですか? 私、この辺りに来るのは初めてなので、美味しいお店があったら教えてほしいです~!」
どう見たって小学生くらいの少女に、食べログに求めるような質問を投げかける花。その様子を見ていた青木は、聞く相手を間違えているでしょう、とため息をつく。
「そんなこと聞いたって困っちゃうでしょ?」
間に入ったのは、花と共に遥に近づいた【重倉璃々】だった。
「遥ちゃんは、猫以外に好きなものってあるの? 甘いものとか好きだったら一緒に食べに行こうか。私も大好きなんだ。特にチョコレートがね」
甘いものが好きだったら一緒に食べに行こう? その言い方はまるで人攫いじゃないか、と青木は内心ひやひやしていたが、遥はすっと目を細めて口を開いた。
「チョコレート……私も大好きです。でもしばらく食べてないなぁ」
「え!? なら一緒に食べに行こうよ! 御馳走しちゃうよ!!」
「え、あの……」
意気揚々と迫りくる璃々と花に、遥が困惑していると、そこに一杯の透明なカップが滑り込んできた。そのカップの中には、白と黒の層が交互に存在していて、飲み物というよりまるでスイーツのようだった。
「飲むスイーツというらしいよ。なんとも粋じゃねぇか」
【七式識】が、カップを滑らせたであろう手はそのままに、遥に目を向ける。決して横に長いわけでもない喫茶Ozのテーブルを、必死に滑らせたであろうその胆力に、一同はごくりと息をのむ。
商品で遊ばないでほしい……青木だけはそう思っていた。
「お嬢ちゃん、お探しの猫の症状・発症時期・病名が知りたいねぇ。弱ってりゃ行動範囲は狭まる。他の奴と協力して、捜査範囲を狭めてぇな。ただな、泣いてるだけじゃ奇蹟は……」
「なぁに焦ったってしゃあねぇんだ。お嬢ちゃん、おじさんにその猫ちゃんについておしえてくれねぇか?」
識の独り語りを遮るように【佐波里玄盛】が遥に近づく。それを合図にしたかのように、様子を見ていた他の協力者たちも遥を取り囲む。
「首輪とか何か特徴的なものをエルは身に着けてないかい?」
【さいまる】は堅実にエルの特徴を聞きだそうと試みる。中野の街で特徴のない白い猫を捜しだすのは、確かに骨が折れるだろう。
「エルは首輪をしてますよ。ただ……」
「ただ?」
「白い首輪なんです」
あ……と、その場の全員が閉口する。白猫に白い首輪。ある意味独特で見つけやすいかもしれない。
「エルは本当に真っ白で、首輪もお揃いにしてあげたくて」
「エルちゃんは、遥ちゃんにとって大事な存在なんだね。遥ちゃんはどうやってエルちゃんと出会ったの?」
【北楯さくら】が遥の隣に腰かけて問いかける。どこか嬉しそうに、遥は口を開く。
「昔、お父さんと山登りに行ったんです。そしたら、急に雨に降られちゃって……二人で雨宿りをしていたら、そこにエルも雨宿りしにきたんです。エルとお父さんと私、一緒に雨音を聞いていました。それから、エルとはずっと一緒だったんです。あの日、雨があがって……一緒に見た虹、とっても綺麗だったなぁ」
遥が遠くを見つめる。外はあいにくの曇り空だ。
「じゃあ、それから沢山の時間を一緒に過ごしてきたんだね。エルとの嬉しかった思い出や、悲しかった思い出、よかったら聞かせてくれる?」
さくらと一緒に話を聞いていた【ぺん】が、遥に笑いかける。
「嬉しかった思い出は本当に沢山あるんです。あ、そうそう! 家族でスキーに行った時なんか、エルったら見たことない雪にはしゃいじゃって! でもエルって真っ白だから、探すのが大変で……」
遥はその頃のエルを思い出してか、ふふっと微笑む。
「悲しかったのは……やっぱり病気で倒れちゃった時かな。あれから一緒にお出かけすることも減っちゃって……」
遥はそう言うと、うつむいてしまった。その顔には、どこか諦めのような、何かを悟ったかのような少女らしからぬ表情が浮かんでいた。
質問をしたぺんを筆頭に、協力者たちは皆気まずそうにしている。
その様子を見ていたリクは、どこかを今も彷徨っているであろう白猫に想いを馳せる。
「これから、どうなっていくんだろう?」
リクは店の外に出ると、嵐が近づく中野の街へ歩き出した。

担当:為房大輔

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