STORY

青空まであと一歩 第二話【個別リアクションD:青木さんとさらに話してみる】

てんいんは たいへんだ

青色喫茶の店内が落ち着いたころを見計らって、青木に声を掛けようとしている人物が5人いる。
あくまで他のお客さんの邪魔にならないよう、自然と目くばせを交わして順に青木に話しかける雰囲気になった。
……という4人の団結を尻目に、とある男がずいっと店員に近寄る。
「遥はどこにいますか? お兄ちゃんが迎えに来ました!」
「はい……?」
あっけにとられ、目を丸くする青木に対してらんらんと目を輝かせて返答を待つ男は、【虹村晴季】と名乗った。
「え、えぇっと……遥ちゃんには、お兄さんはいないと聞いたことがあるのですが……?」
「──」
恐々と答える青木の言葉をきき、虹村晴季はきょとんとした表情を浮かべてたっぷり一拍置いてから、あっけらかんと口を開く。
「その情報までは青木さんもお持ちなんですね! いやなに、反応を観察させていただきました。いきなり失礼をば」
悪びれなくそういう虹村晴季に、青色喫茶の店員は半眼になって「他のお客様も驚いてしまいますから、控えていただけたら嬉しいです」と忠告を返す。
「それでは、ご注文をお伺いいたします」

……虹村晴季が注文を終えたところで、オーダーの順番待ちを装って【黒田】が次に話しかけた。
「注文は今月のオリジナルドリンクで。と、ところで……彼、叶さんはどこに調査に行きましたか? いいえ、僕はあやしいモノじゃなくて……追っかけとかじゃなくて……早めに解決すれば、僕も彼に依頼できるかなって……」
あ、これは追っかけだ。しかも割とアグレッシブな追っかけだ。
店内にいる全員の心が一致した瞬間である。
黒田の問いに、青木は帽子のうさ耳をぴょこんと揺らしながら、100点満点の営業スマイルで口を開いた。
「あいにく、叶さんの行き先は詳しくは知りません。ご注文ありがとうございます! ご用意いたしますので席に座ってお待ちください!」
──この時の青木さんの笑顔は圧が強くて、それもまた可愛かった、とは【北楯さくら】の言である。

青木が虹村晴季と黒田のオーダーを配膳し終えたタイミングで、【中村善次郎】が席を立って注文に向かう。
「ワッフルドックをひとついただこう。それと、これは注文ついでのちょっとした質問で失礼するんだけれど、青木さん、あの子──虹村遥という少女と親しいようだから、少しばかり話を聞かせてもらえないかなぁ?」
「親しいといっても、数回お店に来たことがあるくらいですよ。うーん、そうですね……いつも鍵型のバッジをつけていたのは記憶に残っています」
「なるほど、どうもありがとう」
少女についての情報をもらえたことに満足して、中村善次郎は席に戻る。さっそく彼の注文を用意しようとして……青木はふと振り返り、カウンター越しにじぃぃ……っと見つめる4つの目を見つめ返す。
「あの、なにか……?」
「いえ、可愛いなと思って」
北楯さくらの言葉に、【白井花】も首肯を重ねる。
「ああ、この帽子ですか。いいですよね、ウサギの耳」
「この帽子、垂れ耳うさちゃんバージョンもあるって聞いたんですけど、本当ですか?」
「そうですね。たまに被っていますよ」
「青木さんって何人いるんですか?」
「青木さんは青木さんですよ」
トンチのような返答をにこやかに返しつつ、店員は注文をふたりに促した。
「じゃあ、青木さんの今日のオススメでお願いします!」
白井花の言葉に便乗するように、北楯さくらが続ける。
「あ、私はデザート系のオススメで!」
「では、デザート系のほうはホイップサンドに黒糖ソース、抹茶ソーストッピングはいかがでしょう。お食事系であれば、照り焼きチキンクリームチーズサンドにチーズ追加はいかがですか?」
ほかならぬ青木さんのオススメである。それだけで美味しい。
ふたりの心の声が一致した瞬間である。
当然のように期間限定のドリンクも追加したところで、青木が「そういえば……」と口を開いた。
「叶さんが、仕事を選ばないかのような発言をされていたのは少し気になりましたね。普段はそういう感じではなかったと思うんですが……」
「なるほど?」
「つづけて?」
リズムよくそう促してくる白井花と北楯さくらに思わず笑いをこぼしそうになりながら、「それだけですよ」と話を切り上げた青木はさっそく注文された品の準備にかかったのだった。

──パリッとしたソーセージの味とワッフルの素朴な生地が口の中で広がり、思わず堪能するかのように瞼を伏せるのは、中村善次郎である。

──虹村晴季は喫茶と言えばこれ、とばかりに頼んだナポリタンを口に運ぶ。たかがナポリタン、されどナポリタン。喫茶の評価はナポリタンで左右されると巷で言われることもあるくらい、喫茶にとっても大事なメニューのひとつである。口に広がる芳醇な酸味、太めのパスタ麺のコシ、彩りをそえているピーマンのさわやかな食感、うん、普通に美味である。

──黒田が頼んだ今月のオリジナルドリンクは「エーデルワイス」。
なんということだろう、まさに自分が叶に対して抱いている憧れ、尊敬、好意を体現してくれているような愛らしい白さ! こじんまりとしたマカロンも可愛いものだ。これは記念に撮っておこう、と思わずスマホで写真を撮った黒田であった。

──白井花と北楯さくらは、青木オススメメニューを分け合って堪能していた。リピありでは!? さすが青木さん! さすあお!と盛り上がっている。

それぞれが青色喫茶のメニューを堪能している中、退店される方を見送る青木の耳に、去り際のお客さんの言葉がかすめたのだった。
「最近、街のあちこちで白い猫を見かけるらしいよ。野良っぽくないキレイな白い毛でね……──」

担当:繭

あなたたちの辿った道筋、体験した物語を、ぜひ他の方にも教えてあげてください。
合言葉を忘れずにね。

Xにポストする