
『ランドルフ・ローレンスの追憶』
誕生までの経緯
突然変異的に生まれたゲームなのか?
――『ランドルフ・ローレンスの追憶』は、他のマーダーミステリーと比べて、独自のシステムが凄かったのだと思うのですが、なぜ突然変異的にこのようなゲームが出来たのでしょう?
じゃんきち:
実は、これは突然変異的にできたわけではないんですよ。私の経歴をお話しすると、少しずつ『ランドルフ・ローレンスの追憶』に繋がっていることが分かると思います。
――ぜひ、そこを詳しくお聞きしたいです! そもそも、じゃんきちさんはどういう経緯でゲーム業界に入ってらっしゃったんですか?
じゃんきち:
話は長くなるんですが、まず学生時代にカードゲームのマジック:ザ・ギャザリングにハマりまして、グランプリを連戦して勝ち抜いて、プロツアーにまで行ったことがありました。そして、世界の舞台に立って、ある程度勝ち残って、賞金として30万円ほどゲームでお金を得るという体験をしました。
――すごいですね! 確か『ヤノハのフタリ』を作ったしゃみずいさんもマジック:ザ・ギャザリングのプロツアーに行ってますよね。カードゲームが強いとマーダーミステリーの名作を作りやすいんですかね?(笑)
じゃんきち:
ゲーム内のデータを分析したり、相手の反応を伺ったりということは多少関係あるのかもしれないですね。そして一旦ゲームとは関係のない会社に入るのですが、ソーシャルゲームを遊んでいたことがきっかけとなってゲーム会社に転職しました。ゲームを分析したりは好きだったので、ゲームをこう変えたら面白くなるのではないか、という企画書を持って面接し、採用していただきました。
――いきなり面接で企画をプレゼンしたんですね! それは採用したくなりますよね(笑)
じゃんきち:
それでソーシャルゲームのイベントの企画や運営を、数字と格闘しながらこなしていきました。ソーシャルゲームの仕事も面白かったのですが、知り合いから人狼のお店を開きたいのだけど、店長をやってもらえないか?という話をもらいました。
――もともと人狼はお好きだったんですか?
じゃんきち:
ちょうど人狼にハマってイベントへ頻繁に参加している時期でした。それで声がかかったのですが、お店の運営も面白そうだなと思い、ジョブチェンジすることになりました。
――ソーシャルゲームの運営から、人狼のお店の運営に転職したんですね。
じゃんきち:
最初は大変でしたが、次第にお客さんも集まるようになり、軌道に乗っていきました。
――店長経験があったわけではないのに運営出来てしまったと。
じゃんきち:
そうなんです。そしてお店である日事件が起きたんです。
新しい遊びが生まれたきっかけ
じゃんきち:
ある日のこと、普通の13人村を始めて私は狂人を引いたんですが。いきなり「占い師」が3人と「霊媒師」が2人出てきたんです。私は何もカミングアウトしていないのに。
――なんと!(笑) かなり偏った編成ですね。
じゃんきち:
これは多分配役にいたずらされているな、と気づきました。そしていたずらされているとするならオーナーはどういう組み合わせの役職を配ったんだ?狂人として、この状況でどう立ち回るのが自陣営の勝利につながるのだろうか……と推理しながら遊ぶのが、すごく面白かったんです。
――普通の人狼とはゲーム性がかなり変わりそうですね。ゲームの内容を推理し、それを元に行動するプレイヤーたちの正体を推理するわけですね?
じゃんきち:
そうなんです。結局、その時オーナーが配っていたのは全部「狂人」だったんで、ゲーム性はないただのいたずらだったんですけどね(笑)
――うわー! そういうことか!(笑) それは罠ですね(笑)
じゃんきち:
でも、そこから、レギュレーション自体を非公開にする人狼という遊び、『パンドラの人狼』が出来上がったんです。
――『パンドラの人狼』は、人狼ともマーダーミステリーとも違うのですが、めちゃくちゃ面白いですよね! チケットは即完売でなかなか遊べず、ようやく遊べた時はその体験感に感動しました! まだ遊んだことが無い人のために詳しくは説明しませんが、ストーリーがあり、ゲームとしてもきちんと駆け引きがあり、得も言われぬ没入感がありますよね。
じゃんきち:
そうなんです。この『パンドラの人狼』から、ゲームにストーリーを乗せて演出することをし始めたんです。今は18本までラインナップがあります。そして、この後、もう一段階遊びとして進化させたんです。
――じゃんきちさんが作ったもう1つの新しい遊び『TRPG人狼』ですよね?
じゃんきち:
そうです。『パンドラの人狼』にTRPGの探索要素を加えた遊びです。プレイヤーが考え、行動し、自分の役割を全うして物語が展開していきます。
――『パンドラの人狼』も『TRPG人狼』も、一度きりの驚きに満ちた体験が出来るところが共通していますね。
じゃんきち:
そして、そういったゲームを作っている中で、マーダーミステリーを知り、『約束の場所へ』を遊んだんです。
――台湾のモアイディアスゲームデザインさんの作品ですね。この『約束の場所へ』が日本のゲーム業界に与えた影響は大きいですね!
じゃんきち:
こんな遊びがあるのか、と驚いたとともに、今まで作ってきた『パンドラの人狼』や『TRPG人狼』の要素を活かすことで、面白いものができるのではないかという確信が芽生えました。そこから作ったのが『ランドルフ・ローレンスの追憶』です。
――そうなんですね! 突然変異的に出現した作品だと思っていたのですが、人狼にストーリー性を持たせ、TRPG的な要素や謎解きを加え、そしてマーダーミステリーに合流した結果、『ランドルフ・ローレンスの追憶』が生まれた、という流れだったんですね。
じゃんきち:
人狼からスタートして、少しずつ要素を増やして、お客さんと遊んでいく中で、この遊びが出来上がっていったんです。遊びの進化というのはやはり突然起きるものではなく、試行錯誤の中で少しずつ進化していくものなんだと思います。
――なるほど。とても納得がいきました。もしかすると、『ランドルフ・ローレンスの追憶』に影響を受けて同じような作品が出てくるかもしれませんね。
じゃんきち:
そうですね。まだまだマーダーミステリーはジャンルとして進化していくはずです。私もこれから負けないように新作を作っていきます!
――ありがとうございます! 楽しみにしてます!