真神蛍子
エンディングB(犯人または場所を誤った場合)
もう少しで、誤った人間に殺人の罪を着せてしまうところでした。
自分の至らなさが悔しくて、唇をかむ。
私はやっぱり、名刑事になんてなれないです。
「封筒、渡せてよかったな!」
一色先輩に声をかけられて、振り返る。
「真神さんがいなかったら、捨てられてただろ?」
確かにあの手紙は、事件解決への手がかりの一つになったと思います。
けれど……。
「一色先輩なら、あの封筒がなくても犯人に辿り着いたはずです」
うーーーん、と呻きながら、先輩が柔らかなくせっ毛をかき回す。困ったときのクセなのかもしれません。
「僕だけじゃ解決できないよ、推理するのはロンのやつだし。でも、オレがいなきゃあいつは困る。それに今日は君がいたから……」
ちら、と目配せをする。慌ただしい現場の片隅で、長池さんが静かに目を閉じ、スーツの胸元を押さえていました。
きっと、内ポケットには、あの手紙が入っているのでしょう。
「長池さんが手紙を読めて良かった」
――アヤメ先輩の真実を証明したい。
警察官を志したきっかけを思い出して、胸が熱くなりました。
「私も、読めてよかったです」
取りこぼしたかもしれないささやかなものが、ほんの一つでも拾えるならば。
何度失敗しても諦めず、一色先輩がもがいた先にあるひとかけらが、最後のピースとして名探偵の推理を助けるみたいに。
何度間違えても、寄り添ってくれる人がいる限り、私でもここにいても良いのかもしれない。
少しだけ、そんな風に思えました。