故郷の言葉だ。
先ほどまで耳に届いていた言葉たちが妙に懐かしく感じる。

あなたは「淵祭り」開催の知らせをみて、実行委員会を取りまとめている長良川鉄道に電話をかけた。
岐阜県美濃市で行われる祭りは、町会の大人たちと地元の中学校の生徒と卒業生らの手伝いが中心となり、成り立っている。

あの頃から時を経た今でも、「淵祭り」を忘れることはない。

「お電話ありがとうございます。長良川鉄道株式会社です!」

「あ、あの……今年の手伝いに申し込みをしたいのですが」

「あっ、淵祭りの実行委員会へのお申し込みですね、承知いたしました。
また参加のご希望ありがとうございます!」

「それでは早速参加登録をいたしますので、いくつか質問にお答えください」

「はい、わかりました」

「まずは、ご参加いただく方のお名前、ご住所、ご連絡先電話番号を……」

ネットや携帯電話が普及し、手元でなんでも片付く時代になった。
そんな今も、固定電話というアナログな手段のみの参加の申し込み。
だが、実際にはあなたの故郷に限らず、
のどかな風景の広がる地域には珍しくない事柄であった。

「……はい、ありがとうございます。登録の手続き完了しました。
それでは当日、指定の場所に10時半、遅れないようにお集まりくださいね」

「わかりました。あの、何かいるものとかありますか?」

「いえ、必要なものは全てこちらで準備いたしますので身軽な格好でいらしてください。
遠方からお越しの場合には大きな荷物はどこかに預けてきていただくのが良いかと」

「そう、ですか」

「ご安心ください。今年は遠方からの参加者申し込みも結構ありますし、お越しいただけたら懐かしい顔に会話も弾みますよ」

「なるほど。でも、だいぶ前だからわかるかな」

大丈夫ですよ。
そう懐かしい響きのする言葉を聞いて電話を終えた。

実際には行ってみないとわからないことだが、
少なくとも故郷の空気を感じる会話は心地よい。

あなたは来る日に、束の間の思いを馳せるのだった——