
節制
- 「ディープアクセスキー」を保持し
平穏を望んだ -
あなたは平穏を求めた。
「ディープアクセスキー」が導いた記憶野には、あなたがかつて人間であったことや、優れた技術者であったこと、脳だけを機械の体に移植したことが示されていた。あなたは生粋のアンドロイドではなかったのだ……。だが、ここを出て、どこへ行くというのだ? あなたの世界は、図書館棟をおいて他にない。
「法王」はじきに絶対権力者としての地位を退くだろう。そうなればこの図書館棟がどうなるかも分からない。そして肉体的にはアンドロイドであるあなたは、緩やかな破壊から逃れる術はない。だから、あなたは自身が滅びるその日まで、役割を果たしたいと願った。あなたの指先で、一日でも永く、いっときでも健やかに、仲間たちには過ごして欲しいのだ。
安寧の果て全てが均一化し、あなたがあなたでなくなってしまっても。きっと指先は軽やかに踊ってくれるはずだから。
- 「ディープアクセスキー」を奪われ
平穏を望んだ -
あなたは平穏を望んだ。
「ディープアクセスキー」を奪われ、図書館棟の破綻の一端の責任が自身にあると思えばこそ、ここに残り修復と贖罪に身を捧げるべきだと感じたのだ。
「法王」は全ての選択をアンドロイドひとりひとりに託した。たとえ責任を放棄してここから出て行っても、誰もあなたを責めないだろう。しかしあなたは図書館棟に留まる決断をした。これはあなたの自己犠牲だ。いや、自己満足かもしれない。それでもあなたは、図書館棟と仲間たちのために、身に着けた技術を役立てたいと心から思った。いくつかの選択肢のなかから、あなたの手腕を仲間たちのために使うことに決めたのだ。
この記憶も決意もいずれは消えてしまうかもしれない。しかしすべてを忘れても、平穏と静謐に満ちた世界で、きっと指先は軽やかに踊ってくれるだろう。
- 「ディープアクセスキー」を保持し
挑戦を選んだ -
あなたは挑戦を望んだ。
「ディープアクセスキー」が導いた記憶野には、あなたがかつて人間だったこと、優れた技術者であったこと、脳だけを機械の体に移植したことなどが示されていた。あなたは生粋のアンドロイドではなかったのだ……。だから、ここから出て、外の世界を知りたかった。肌で感じて、心に残る経験を積みたかった。
ここから旅立つことに対して後ろめたい気持ちはあった。あなたがいなくなってしまったら、仲間たちは修理もできずに廃棄されるかもしれない。
あなたがうつむいていると、同僚が近づいてきて道具をかざした。そして、あなたの目の前で軽やかに扱ってみせた。あなたの心に光が灯る。技術は、確かに継承されていたのだ。同僚があなたの背中を押した。あなたはうなずき、遥か彼方を見据え、力強く一歩を踏み出すのだった。
- 「ディープアクセスキー」を奪われ
挑戦を選んだ -
あなたは挑戦を選んだ。
いや、責任から逃げたのかもしれない。「ディープアクセスキー」を奪われたことは、図書館棟の破綻を助長しただろう。
また、「法王」がじきに役目を果たせなくなるのも知っている。それなのに図書館棟から出ていこうというのだ。不人情のそしりは免れない。それでもあなたは知りたかった。自身の過去を、まだ見ぬ外の世界を。心の虚を埋める術が、きっとどこかにあるはずなのだから……。
心残りは、あなたの技術を図書館棟に置いていけないことだ。うつむいていると、同僚がやってきて、あなたの道具をねだった。愛用の工具を手渡すと、同僚は軽やかに操ってみせた。まるでいつものあなたのように。あなたの技術は、同僚に確かに継承されていたのだ。あなたの回路に光が走った。力強い握手を交わした後、あなたはいちども振り向かずに、大きな一歩を踏み出すのだった。

ライター:しゃみずい
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