隠者

「ディープアクセスキー」を手に入れ
平穏を望んだ

完全に記憶を取り戻したあなたは、悩みながらも、再びすべてを忘れることを選んだ。

自分はすでに死んでいる。もともとこの身は無いようなものなのだ。自ら死を望んだあの時の記憶が、荒縄のようにあなたの心を締めつける。もう二度とあのような想いはしたくない。伴侶を悲しませ、同じ気持ちにさせるくらいなら、このまますべてを忘れ、図書館棟で今まで通り静かに平和に暮らしていこう。そして悠久のときを過ごそう。

最愛の伴侶はかつて、あなたがどんな身体になっても一緒に生きたいと願ってくれた。そのおかげで今の自分がある。それを知っただけでも、あなたの魂(アニマ)は優しくあたたかい気持ちで満たされていく。

眠りについたあなたはいつもの夢をみた。あなたを包む大きくて温かい手。その先には優しく微笑む最愛の伴侶「愚者」がいた。それはとても幸せな夢だった。

「ディープアクセスキー」を
手に入れられず
平穏を望んだ

あなたは「ディープアクセスキー」を手に入れることはできなかった。

自分が誰かは分からなかったが、ともに残った仲間たちとこの図書館棟を守り続けると決めた。ここには辛いことも悲しいこともない。あるのは平和で穏やかな時間。あなたの望むものすべてがあった。

あの記憶はなんだったのか、いつか分かる日が来るかもしれない。記憶も自我も失って、今、こうして考えていたこともじきに忘れてしまうのだが、あなたはまたいつかそんな日がくると予感していた。

深い眠りにつこうとしたとき、ふと、不思議な気持ちになった。遠い昔に同じようなことがあった気がする。あなたが眠りにつくまであなたの手を強く握る温かくて大きな手……その目に光る涙が意味するものはなんだったのだろう。

考えていても分からない。あなたはそのうち考えるのをやめ、深い眠りにつくのだった。

「ディープアクセスキー」を手に入れ
挑戦を選んだ

すべての記憶を取り戻したあなたは、かつて最愛の伴侶と過ごした人間世界へ戻る決意をした。あの人がどのような決断をするかは分からない。しかしあなたは旅立つことにしたのだ。

目を閉じれば昨日のことのように鮮明に思い出せる、「愚者」との穏やかで満ち足りた日々。たわいもない言い合いから、どちらもあとに退けなくなり、別れを覚悟して2人で泣き明かしたあの夜のことも、今となってはあなたの魂(アニマ)に刻まれた大事な思い出だ。大切な記憶は、これからさらに増えていくことだろう。もう決して忘れたりしない。

一度は諦め、自ら死を望んだ人生。これから起こるであろう困難など大したことはない。「愚者」が禁忌を犯してまでも与えてくれた、このアンドロイドの身体が終わりを告げるその時まで、精一杯生きようと決めた。

命ある限り、生きる。それがせめてもの、愛する人への恩返しだと思うから。

「ディープアクセスキー」を
手に入れられず
挑戦を選んだ

「ディープアクセスキー」を手に入れることはできなかったが、あなたは新しい世界への扉を開くことにした。

外の世界は過酷だろう。自由を選んだ代わりに、継続的にメンテナンスを受けられなくなったアンドロイドには生き辛い場所かもしれない。それでも、あなたは自分に芽生えた感情と大切な夢のために、勇気ある一歩を踏み出したのだ。最愛の人と手を取り合い支え合いながら生涯を終えることを求めて……。

外の世界に出て、しばらくした頃またあの夢をみた。

あなたの手を包む大きな温かい手。その先には優しく微笑む「愚者」がいた。

なぜ「愚者」が夢の中に出てきたのだろう?

あなたの頬を、冷たくも、温かい何かが伝っていく。それが何なのか、どうしてそんな夢を見たのかは、結局最後まで分からなかった。

ライター:Yu

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